11月某日、Vlink編集部のHさんから携帯電話に連絡が入り、新宿に来てほしいと言われた。打ち合わせにしては変な場所だなと思いながら、待ち合わせた大型量販店の前に着くと、Hさんは僕に言った。「今からデジカメを買います。予算は5万円ね。わかった?」「は、はぁ?」





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とりあえずデジカメを持って、街に出てみた。気がつけば、街はクリスマスムードであふれている。ショーウィンドーに反射する街の明かりも入れたかったので、ストロボ設定をオフにして手持ちで撮影した。ストロボの光は、その場の雰囲気を壊しかねない。見た目どおりに撮影したい場合はストロボを使わないほうが良いが、手ブレしやすいので注意が必要だ。



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銀座4丁目付近にある宝石店の有名なツリー。ちょうどツリーが飾られた日だったようで、まだ準備に追われていた。イルミネーションに包まれたツリーがとても綺麗だったので、この場合もストロボなしで撮影。フィルムを使うカメラだと、三脚か高感度フィルムを使わないとブレてしまう条件ではあったが、デジカメは手持ちでも綺麗に写った。液晶モニターを見ながら「ウンウン、なるほどね」とひとりご満悦の僕。



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高速道路を運転中、長いトンネルに入った。鼻唄を歌いながらご機嫌の僕は、胸ポケットからオモムロにデジカメを取り出すと、片手でハンドルを操り、もう片方の手でダッシュボードの上にデジカメを乗せて撮影。この時もストロボ設定はオフである。移動しながらなので、写真がブレるのは承知していたが、なかなか臨場感のある写真が撮れた。



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熱海方面から国道135号線を南下して行くと、右側に突如、とてつもなく大きなペンギンの模型が立っていて、以前「なんだっ?」と驚いたことがある。伊東市にある“ペンギン博物館”なのだが、この日は雑誌の取材でそこを来訪した。門柱に立っていたコマイヌならぬ、コマペンギンが青空に映えていたので、すかさず撮影。デジカメだと撮影直後についつい画像を確認してしまうのだが、この日は眩しすぎて液晶部分がよく見えなかった。



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友人の陶芸家・桜井寛之くんが陶芸仲間らと新橋のギャラリーでグループ展を開催した。案内状をもらったので見に行ってみると、なかなかの盛況ぶりだった。お願いをして作品を撮らせてもらったのだが、この時もストロボは使わず手持ちで撮影した。撮るときは茶碗だけでなく、背景に気を使ってみたりすると会場の雰囲気が出てくる。このときは窓を入れてみた。
デジタル化計画(実験)?


「これが、いいかなぁ。いや、あれもいいよねぇ」

Hさんは楽しそうにデジカメを見ている。

「デジカメなんか買って、一体どうするのですか」

「やだなあ、放浪写真家もしっかり見てよ。あなたが使うデジカメを買いに来たのだから」

「えっ、僕が……? デジカメ?」

「スミマセン。これ、くださ〜い」

「……」

「?」マークが僕の頭上をクルクルと回っているうちに、デジカメは購入され、「はいっ」と手渡されてしまった。アイマスクこそされなかったものの、某テレビ局の人気番組「電○少年」のような展開だ。

これまで僕は、デジカメとはあまり縁がなかった。普段、使用しているのは、昔ながらの銀塩(いわゆるフィルムを使用する)カメラで、オートフォーカスやオートで露出を決めるようなAE機能はついているが、デジタルのデの字も出てこない。

友人のデジカメでちょこっと撮影した、いや、ボタンを押したことがあるという程度である。そんな、デジタルにからきし疎い僕が、Hさんの「放浪写真家・デジタル化計画(実験)」の“いけにえ”になってしまった。

そういえば、『モンゴリアン・チョップ』を始めた時、僕はパソコンを持っていなかった。ワープロで打った原稿をプリントアウトし、VlinkにFAXする。それを見ながらHさんが入力し直すという、今では考えられない方法をとっていたのだ。

「放浪写真家にもパソコンがあったら、いいよねぇ。原稿なんか、メールでピューだよっ。さぁ、クリック! クリック!」

と言われ、今年の1月にノートパソコンをようやく購入した。確かに、その後は原稿のやりとりがスムーズになり、更新の直前に原稿を送ることも可能になった。もしかすると、そのころからHさんの頭の中には「放浪写真家・デジタル化計画(実験)」が企てられていたのかもしれない。

とまぁ、こんな風に書くと、いかにもHさんに無理やりやらされているような感じだが、実際にはパソコンにもデジカメにも、僕としてはかなり興味があった。ただ、デジタル化の波の動きが速すぎて、

「おっはいんなさい。おっはいんなさい。さぁ、どうぞっ」

と言われても、入るタイミングがわからず、「僕は“アナログ人間”ですから」と言い訳して逃げて来たのである。でも、時代は確実に変わってしまったようだ。“アナログ”な奴はもう、時代についていけない。

「今こそ、デジタル人間として立ち上がるべき時が来た!」

と僕は鼻息荒く、決心したのである。

なんだか前置きが長くなってしまったが、デジカメを片手にフラフラと夜の街に繰り出してみた。慣れない手つきでデジカメのスイッチをオンにして、液晶画面を見ながら、気になったものを撮影していく。

僕のデジカメにはデジタルズーム機能がついているが、画質が落ちてしまうので使わないことにした。写真を生業としている者として、画質にはこだわりたいのである。

基本的にはズームを使わず、自分が前後に移動して撮影するスタイルを選んだ。「撮ろうと思った位置から、あと1歩前へ出て撮影する」、これが写真の基本である。

しかし、両手を伸ばして「ピッ」と撮る作業は実に違和感があり、間抜けな格好に思える。隙だらけで、外国ならスリの良いカモになっていしまいそうだ。

でも、撮影後すぐに画像の確認ができるのは悪くない。画面を見ながら、「ふむふむ、なるほど」と納得する僕。リアルタイムで撮影画像を確認できるのはデジカメの利点であり、僕には新鮮でもある。

街で夜景を写してみたところ、銀塩カメラだとブレてしまうような暗い条件でも、デジカメは手持ち撮影ができ、明るく写せることがわかった。ピントも手前から奥までしっかり合っていて、これにはちょっと驚いた。ただし、明るい光があるときでないとダメなようで、真っ暗な場面では三脚を使用しないとブレてしまった。

僕は夜景撮影では、基本的にストロボを使わない。その場の雰囲気をストロボの光によって消したくないからでもあるが、ストロボの光は数メートルしか届かず、使用してもあまり意味がない。それに電池も食う。デジカメの電池の消耗は大きな問題なので気をつけたい。

綺麗に写らず、電池も消耗するとなれば、使用しないのは当然。ストロボを使用しないだけで夜景が綺麗に写るのはデジカメでも、銀塩カメラでも変わらない。僕がストロボを使うのは、夜景をバックに手前にあるモノを入れて撮影するような時と、その場が暗すぎる時などである。

屋外や室内などでも撮影してみたが、意外や意外、どんな条件でもデジカメは綺麗に写った。僕は構図を決めてシャッターを押すだけである。ズームも使わず、露出もピントもオート任せの撮影。設定はストロボを使うか使わないかだけ。たぶん、みなさんがお持ちのデジカメと、条件は変わらないはずである。

カメラが軽いとフットワークも軽くなる。これからデジカメの機動力を生かして、いろいろなものを撮影したいと思っている。デジカメについてはまだよくわからない僕だが、単純な設定だけでどこまで撮影できるか、楽しんでみたい。


by 清水哲朗

つづく

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