「デジカメで風景写真なんて、うまく撮れるんですか?」。ウランバートルのインターネットカフェで、日本人の留学生に聞かれた。「えぇ、撮れると思いますよ。今のデジカメは良いですからね。オート撮影でも良いですけど、しっかり撮りたいなら、マニュアルで露出調整をしたほうが良いと思います」。今まで撮影してみて、設定さえしっかりやればあとはどうにかなるという手応えを感じていた僕は、デジカメでモンゴルの風景を写してみた。

モンゴルの風景


今回はモンゴルの西の方へ行く。

ただ、それだけを決めて、僕は日本を出発した。あまり情報は調べていない。それは、僕なりの旅を楽しみたいからである。つまらぬ先入観に振り回されるよりも、僕なりの解釈で出逢いを自由に撮影していきたいのだ。

いまや、モンゴルは僕の中でかなり大きな存在となっている。作品を撮るのはもちろんのこと、夢を求めて、自由を求めて、出逢いを求めて、驚きを求めて、他にもいろいろなモノを求めてモンゴルへ行っている気がする。

現地に着くと、いつものように運転手のバットスフと軽く打ち合わせをした。西へ行きたい、冬の寒そうな写真が撮りたい、あとは適当に……。極めてアバウトかつシンプルに伝え、臨機応変に撮影する意思も伝えた。このようなアバウトな打ち合わせは、運転手と息が合わないとできない。バットスフは僕のことをよく理解してくれているので、助かるのだ。

田舎へ旅立つ日、バットスフをプルゴンの前に立たせ、デジカメで撮影した。撮った写真をすぐに見せると、

「なんだ、これは」

とかなり驚いていた。マイナス20度ぐらいであったが、デジカメで何の問題もなく撮影できたので、まずは一安心である。

今年のモンゴルは平年並みの寒さらしい。昨年はマイナス40度近かったので、さすがに暖かく感じられ、フリースでいても平気だった。ダウンを着ないでいられるのは、動きやすくてありがたい。昨年のモンゴルが異常な寒さであったことが、実感できた。

寒さや厳しさをデジカメで表現するには、あることをすれば良い。それは、デジカメの設定をマニュアルにして、露出をマイナス補正して撮るのである。マイナス補正することによって暗めな写真になり、重たい雰囲気が出る。

今回はモンゴルの厳しい冬を伝えたかったので、このマイナス補正は大活躍であった。僕の使用しているデジカメは、日中に撮影すると明るく写りがちなので、今回はほとんどマイナス補正して撮影した。

ウランバートルから西へ向かって進むと、昨年よりも厳しい風景が広がっていた。モンゴル西部は4000メートルを超える山々もあり、毎日飽きることなく撮影できた。今回の旅で撮影したデジカメによる風景写真を、いつもより多めの枚数で紹介しよう。


by 清水哲朗

つづく


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トーノと呼ばれる、ゲルの天井部分。ゲルに住む遊牧民は、ここを開閉することで、光や温度を調整したり、空気を入れ替えたりする。ソフトフォーカス写真のように写っているのは、「はぁ〜っ」と息を吹きかけたからではなく、氷点下の外界から急にあったか〜いゲル内へ入ったため、カメラのレンズが曇ってしまったのである。レンズの曇りはしばらく取れないので、カメラを徐々に温度に慣らすのが対処法。故障の原因にもなるので、寒暖差の激しいところへ移動する場合は、注意したい。

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全面凍結した川に、美しいマーブル模様が出来上がっていた。そこを通りかかった時が、ちょうど日没前。空がグラデーションになっていて、さらにフォトジェニックな世界を演出してくれた。自然が織り成す造形美に、時が経つのも忘れ、夢中で撮影してしまった。銀塩カメラだと三脚が必要なぐらい辺りは暗かったが、デジカメは手持ちで撮影してもイメージ通りに撮れた。

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ウランバートルから西に約1600キロの位置にあるホブド県のハブツァリン・アム(渓谷)。この日は、朝から雪が降っていた。前夜に泊めてもらったゲルから約20キロの距離にあり、そう遠くではなかったが、「雪の時は危ないよ」という遊牧民の忠告を「絶好の写真日和」と押し切って見に行った。雪道には苦労したが、とても素晴らしい渓谷であった。寒そうな風景写真にしたかったので、おぼろに見える太陽も入れて、デジカメの露出をマイナス側に設定して撮影。

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移動距離が長いこの日は、まだ真っ暗な時間に出発。しばらく走ると、ようやくボンヤリと辺りが見えてきた。どうやら、僕らは平原地帯の中の道を走っているようだ。モンゴルの平原を吹く風は強く、脅威ですらある。この日もビュンビュンと唸っていた。平原に積もった雪は、この強風によって荒々しいオブジェとなり、台地に張り付いていく。刻々と変わる夜明けの微妙な時間帯で荒さと寒さを強調するために、これもマイナス補正をして撮影した。

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日は沈んだが、まだまだ目的地は遠い。撮影しながらの旅は、予定通りに進まないところが良くもあり、悪くもある。西を目指しているので、毎日太陽が沈む方向に走っているが、この日は朝から日沈まで、ずっと蜃気楼が見えていた。蜃気楼は、暑い時に見えるとばかり思っていたが、氷点下でも見えるのだ。移動するプルゴンの中で蜃気楼のメカニズムについて考えてみたが、よく分からなかった。色を強調したいので、この時もマイナス補正で撮影している。

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昨年、一昨年とモンゴル全土に猛威をふるったゾド(雪害)。今年は比較的暖かったものの、一部では雪の影響で草がなく、ゾドは起きていた。道端に無造作に山積みされた家畜の死骸を目の当たりにしてしまうと、言葉なんて出てこなくなる。僕にできるのは、せいぜい写真を撮って第三者に伝えることぐらい。なんとも、もどかしいが、これが現実だ。臨場感を出すために、山積みされた家畜の上に這いつくばって撮影。

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寒い。痛い。強風のせいで、体感温度は相当低い。露出している肌が痛くて、鼻の頭とか、ちぎれそうだ。でも、こんな時でも写真を撮ろうとするのが写真家……困ったものである。デジカメでも銀塩でも、日没後や日陰で撮影すると青っぽく写る。僕は、このとき、寒さを強調したかったのと、さらに青さを強調したかったので、露出は暗めの大幅マイナス補正をした。

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岩山の中腹部分にあるゲルに泊めてもらった。ゴツゴツとした岩を回避したり、乗り越えたりして、ようやく辿り着いた。移動中に知り合った遊牧民のゲルだが、人が住んでいることを知らなければ、絶対にここまで来ることはなかっただろう。「なんで、こんなところに?」というような場所に住んでいる遊牧民は意外と多い。夜明け前のブルートーンの中、煙突から立ち上る白い煙を、マイナス補正して撮影。

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放牧された家畜は夕方になるとゲルに帰ってきて、遊牧民が自作した石の囲いの中で夜を過ごす。その方が野生動物に襲われにくく安全だし、水なども飲める。日が昇るまで、ほとんどの家畜は眠っているが、中には、お腹がすいて囲いを乗り越えてしまう困りモノもいる。日が当たる前の暗い日陰で、前景から背景まで綺麗に写せるデジカメって、やっぱりスゴイ。朝の雰囲気をブルートーンで表現した。

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ウランバートルから北京へ向かう国際列車の中で夕日を撮影。色を強調するために、若干のマイナス補正をした。ちょうど、ここはゴビ砂漠の辺り。「元気かな? ドルジさん……」。なんだか、ドルジさんといつも見ていた夕日を思い出してしまった。旅の終わりはいつも淋しい。行きのワクワク、ソワソワした期待感とは対照的な気分だ。「あぁ、日本に帰ったら現実が……」。モンゴルは、僕の夢物語の世界なのである。