【モンゴル放浪メモ】               ◆遊牧民は外で寝る?
寝るときのために僕はテントを用意していたが、ドルジさんはテントを持っていない。どうするつもりなのだろうと疑問に思って、とりあえず「テントの中で一緒に寝ますか」と聞いてみた。しかし、カメラ機材と僕だけでテントはほぼいっぱい。一緒に寝るのは難しそうだ。ドルジさんは、「ああ、大丈夫。外で寝るから」と、さらっと言いのけた。「えっ」と驚く僕に、「いつもこうしてるから」と言うと、布団を地面に敷き、掛け布団を全部かぶって眠ってしまった。恐るべし遊牧民。




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目覚めると、テントの外は一面の霧。比較的高い山に登ってみると、眼下には雲海が広がっていた。







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山中を歩いているとき、偶然に出逢ったヤンギル(野生のヤギ)。逃げずにこちらを見ていたので、静かに撮影した。







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岩場にある水たまりにヤンギルの角が落ちていた。山の上から流れてきたのか、ここで水を飲んでいて襲われたのか、僕にはわからない。
第9話 『仙人』は僕の味方


早朝4時30分起床。眠い目をこすりながらテントの外にでると、ドルジさんはすでに起きていて、昨日拾ったラクダのフンを燃やしてお湯を沸かしていた。さすが遊牧民、朝が早い。

目覚めのお茶を一杯のみほし、ついに僕とドルジさんによるユキヒョウ探しが始まった。辺りはまだ薄暗く、ゴツゴツした岩だらけの山なので、不慣れな僕は足下がおぼつかない。カメラ機材が肩に重くのしかかり、海抜2500mほどの山中でも息切れの度合いが激しかった。

だが、先をいくドルジさんは僕の方を振り返ることなく、黙々と物凄いスピードで進んでいってしまう。とても61歳とは思えない身のこなしである。

僕は「ハァハァ」いいながら、置いていかれないようについて行くのがやっと。苦しかったが、心の中ではユキヒョウに会える気がしてドキドキしていた。そういう気持ちが僕の足を自然と前に運んでくれる。

しばらく行くと、ドルジさんの足が止まった。僕の方を振り返り、体を低くするよう指示した。岩陰に隠れながらドルジさんは遠くの山を指さし、ヤンギル(野生のヤギ)が2頭いると言う。僕は双眼鏡を凝視し、辺りをキョロキョロしてみたが何も見えなかった。

「どこ、どこですか」

「ほれ、あそこ」

「…………」

「あれ、あそこにいるでしょ」

「えっ、どれ」

僕にはてんで見えやしない。そんなやりとりが何度か続き、ようやく見えたのは発見から5分後であった。

遠すぎたので撮影はしなかったが、ヤンギルを見つけだすのにこんなに時間がかかってしまったのは、ちょっとショックが大きい。ユキヒョウだったら、見ることもできずに逃げられていただろう。そんな不安が頭をよぎる。

しかしこの薄暗い中、遠くの動物を肉眼で見つけだすドルジさんは僕の味方。そして彼の登山における驚異的スピードは何にも負けない。必ずユキヒョウに会わせてくれるだろうと、この時、信じた。そして僕はドルジさんのことを心の中で『仙人』と呼ぶことにした。

その後、僕らは山中を8kmほど歩き、昼過ぎにベースキャンプに戻った。初日とはいえ反省すべき点が多い。黙って下を向いている僕に、ドルジさんは、

「心配ない。そのうち目が慣れるよ」

と励ましてくれた。そう、明日もあるさ。勇気づけられた僕は、急に腹が減ってきた。疲れちゃったから昼飯はカップラーメンでいいやと、お湯を沸かすことにした。

とりあえずラクダのフンに火をつけてみる。乾燥しているので、思いのほかよく燃えた。海抜も高いので、すぐ沸騰するだろうと思っていたが、なかなか湯気がでてこない。フーフーしてみても、そんなに変わらない。

ドルジさんに助けを求めると、ラクダのフンを山盛り追加したくれた。火力が弱かったのだろうか。お湯さえあれば3分でできるカップラーメンだが、結局、お湯を沸かすのに1時間弱もかかってしまった。


by 清水哲朗

つづく



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