【モンゴル放浪メモ】               ◆雷雨に見舞われた夜
ユキヒョウの動きを少しでも察知したいという思いから、ベースキャンプにテントと荷物を残し、谷あいで眠ることにした。僕は寝袋ひとつ、ドルジさんは民族衣装のデールをまとい就寝。谷を吹き渡る風の音、動物が歩いて岩が転がり落ちる音、野生動物の臭い、うなり声、すべてが気になり、なかなか眠れない。ようやく眠りについた頃、強風が吹き荒れ、大雨、雷に見舞われた。寝袋に潜り込んだが、まともに雨が当たるので身体は冷えるし、寝袋越しにピカっと光る雷も怖い。機材に雷が落ちるのではないかという不安もあって、また眠れなくなる。真上に雷がある時に撮影したいと思ったが、まだ死にたくなかったので雷が隣の山に行くの待って撮影した。




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朝日を浴びるヤンゲルの集団。子ヤンゲルの姿も確認でき、愛らしいひとときである。






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ゼール(モウコガゼル)の頭部。胴体は食われてしまったらしい。怪しい雰囲気で撮りたかったので、月明かり(上弦の月)で撮影する






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山頂で寝袋ひとつで寝ていると、雷雨に見舞われた。雷が隣山に移動したときに撮影。深夜2時の出来事だった。
第11話 ユキヒョウの足跡発見!


早朝起床。

寝起きは昨晩の恐怖体験からか、かなりローテンションである。お茶を飲みながら、あの恐怖をドルジ仙人に伝える。しかし、僕の乏しいモンゴル語のボキャブラリーでは、「野ウンチの恐怖」は通じにくく、結局あーだのこーだの言いながらしゃがんだり、犬を指さしたり、ジェスチャー付きで説明した。

ドルジ仙人が、どの程度理解してくれたか分からないが、下を向いてニヤニヤしながら聞いてくれたので、僕的には少しスッキリした。かたわらではドルジ仙人の愛犬マーテが、こっちを見ながら他人事のようにシッポを振っていた。

お茶を飲み終えると、僕らは山へと向かった。最初の頃は息切れが激しく苦しかったが、今では身体が順応してきたようで、ドルジ仙人と同じペースで歩ける。若いって素晴らしいねぇ。

しかも、ドルジ仙人が言ったとおり、目が慣れて動物を見つけられるようにもなり、周囲を気にする余裕ができた。

ちょっと歩いたところでドルジ仙人の足が止まった。何を見つけたのだろうか。地面を凝視して辺りを窺っている。

「どうしたんですか?」

と尋ねると、

「大きなユキヒョウの足跡がある。ここで昨晩寝ていた。2頭いる」

とボソっと言った。

「えっ。2頭も! ベースキャンプからそんなに離れていないところでユキヒョウが寝てたのか。う〜ん」

嬉しいような、悔しいような微妙な気持ちである。夜中に野ウンチなどしてる場合ではなかったのだ。

とりあえず、僕らはユキヒョウの足跡を辿っていくことにした。名探偵ばりに腰を曲げながら、足跡を追う。ユキヒョウの通ったとおりに進むので、足跡が岩を1周していたら、僕らもその通りに回った。足跡を見てドルジさんが「ウンウン」うなずくと、僕も同じく「ウンウン」うなずいた。

しばらくすると、まだ新しいユキヒョウの糞尿を発見。

「近いな」

仙人はつぶやいた。仙人の言っていることに間違いはないだろう。だって、仙人の顔に刻まれた深い皺がそう物語っている気がするのだ。僕は仙人を信じ、辺りを見回した。

「………………」

てんで何もなし。懲りずに再度、追跡を開始。すると、またもや新しいオシッコの跡あり。嗅いでみるとネコのオシッコのような強烈な臭いがした。

「会える。ユキヒョウに会える」

臭いをかいだまま、夢心地になってしまった。いけない、いけない。僕は高まる感情を抑えるのに必死だった。

近くの岩にヤンゲルが数頭いたが、今はそれどころではない。ドルジさんと僕の足取りは軽くなり、さらに追跡するのであった。


by 清水哲朗

つづく



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