【モンゴル放浪メモ】               ◆肉が大好きなモンゴル人
すべてのモンゴル人ではないと思うが、肉がなくなったときのモンゴル人にはある種、怖いものを感じる。旅に出るときは必ず生肉を買って持って行くし、なくなれば途中の遊牧民に売ってもらう。肉は彼らの主食なので、このぐらいは普通だが、1週間も肉を食べずにいると大変だ。機嫌が悪くて、怒りっぽくなる。たかだか1週間ぐらいと思うのが、彼らにとっては耐えられないことらしい。どの料理にも肉を入れないと怒るし、脂身入りでないとダメだと言う。脂身を入れないのは邪道だそうだ。手元に肉がなければ、今回のドルジさんのように野生動物を自分で撃って手に入れようとする。僕が今まで出会ったモンゴル人には、こういう人が多い。




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遊牧民に銃は必需品である。銃は、家畜がオオカミなどに襲われたとき、遊牧民どうしが協力して狩りをするのに使う。家畜を食べない夏場は、野生動物を撃ち殺して食べることもある。



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ドルジ仙人は撃ち落とした鳥を拾ってくると、おもむろに地面に投げ捨てた。調理よりも2羽目をゲットするのが目的らしい。行ってしまった。調理用ストーブの周辺には、なんだか物騒なものが転がっていた。



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ドルジさんが、すごい勢いで羽毛をむしり始める。僕が驚いて「あ〜、あ〜、あ〜」と言っている間に、頭と両翼にしか羽毛はなくなってしまった。その名の通り、鳥肌を露わにした鳥の頭を切断して、嬉しそうなドルジ仙人。
第12話 あ〜あ、写真撮ってたのに


「会える、ユキヒョウに会える!」

今、僕の頭の中は、この気持ちで溢れ返りそうになっている。心臓の鼓動が激しくなり、胸が苦しい。野生のユキヒョウを目前にして緊張しているのか、それとも足早に歩いているので本当に苦しいのか。そんなことすら分からなくなっていた。

ドルジ仙人は獲物を追う獣になったかのように足跡を追っている。速い。いつにもましてガンガン進んでいく。僕は置いていかれないようについていくのが、やっとだ。ドルジ仙人の呼吸も荒くなってきた。

「いいぞ、いい感じだ。ユキヒョウよ、早く現れろ」

ユキヒョウの足跡を追いながら、僕らのボルテージも最高潮になったその時、ドルジ仙人の足が止まった。

「いたのか、ついに」

しばしの沈黙。ドルジ仙人は周囲をキョロキョロと見回している。しかし、辺りは耳鳴りがするほど静かだ。本当に動物がいるのだろうかと不安になる。

目の前に大きな岩が立ちはだかっていた。ドルジ仙人が登って、首を横に振る。僕も登ってみて、愕然としてしまった。そこから先は二股に分かれている上、全く足跡がないのだ。

ドルジ仙人と互いに顔を見合わせて、大きくため息をつく。

「むむむむむ……」

どうやらユキヒョウの方が一枚上手だったらしい。ここまで追ってきたが、完全に巻かれてしまったようだ。 悔しいので、僕はさらに追いかけようとドルジ仙人に言ってみたが、彼は首を横に振った。

「シミズ、残念だがもう遅い。すでに遠くへ行ってしまったよ」

「う〜ん。う〜ん」

なんともやりきれない気持ちだが、ドルジ仙人が言うのだから仕方がない。あきらめよう。

ベースキャンプへ戻ったが、気持ちは重い。ドルジ仙人は黙々と燃料となるラクダのフンを拾い始めているが、僕は下を向いたまま何もする気が起こらない。手伝わなきゃと分かっているものの、逃した獲物のショックは大きく、すぐには立ち直れそうにない。

「シミズ、ユキヒョウに出逢うことは非常に難しい。明日また探そう」

ドルジ仙人が慰めてくれる。日本では動物園に行けば必ず逢えるユキヒョウだが、この地では姿も確認できない。毎日毎日、フンと足跡を見ているだけ。悲しくなってしまう。無理なのだろうか。

ぼーっと考えていると、けたたましい鳴き声がした。辺りを見回し、声の主を探す。

「あっ、鳥だ。あいつが声の主か」

カメラを向けてシャッターを一枚切った瞬間、耳元で「パーン」と乾いた音がした。と同時に強烈な耳鳴りが始まった。

振り返ると、さっきまでラクダのフン拾いをしていたドルジさんが銃をかまえていた。目つきが今までとは違う。再び鳥に目をやると、バタバタともがいた後、地面に落ちた。

「あ〜あ、写真撮ってたのに」

ドルジさんにそんな声は聞こえず、

「この肉はウマイからね」

と言って嬉しそうに鳥を拾ってきた。そして、

「最近、肉食ってないから」

と言ったかと思ったら、続けざまにもう一羽撃ち落としてしまうのであった。


by 清水哲朗

つづく



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