【モンゴル放浪メモ】
ゴビの旅で一番怖いと感じたのは『風』だ。これがちょっとやそっとの風じゃない。ラジオでも、「今日は風速15メートル以上の風が吹くでしょう」なんて平気で言っているから驚きだ。日の出直後に風が出てきたなと思っていると、夜中まで荒れ狂ったように吹き、それが何日も続く。写真は、前日とは風向きが変わり、テントにまともに横風を受けてしまった時のものである。





[写真クリックで拡大+撮影データ]
ドルジ仙人が手のひらに並べた9枚の穴あきコイン。モンゴルと中国の古い通貨がまざっているようだ。裏、表の並びを見て占うらしい。



[写真クリックで拡大+撮影データ]
山中でおもむろに座ったドルジ仙人は、コインで占いを始めるのであった。仙人に限らず、占いを信じる遊牧民は多い。ちなみに、仙人は早朝のユキヒョウ捜索前と足跡を追っていて分からなくなった時に占っていた。



[写真クリックで拡大+撮影データ]
明け方、岩の上で親子のヤンゲルがこちらを見ていた。親ヤンゲルより子ヤンゲルの方が好奇心が強いようで、ずっとこちらを見ていた。逃げないようにそっとシャッターを押す。



[写真クリックで拡大+撮影データ]
強烈な夕日に浮かぶドルジ仙人とラクダ。超望遠レンズで覗くと、シルエットになっているドルジさんはまさに『仙人』に見えた。この日、僕は仙人よりマイラクダを譲り受けた。
第13話 仙人のコイン占い


ユキヒョウに巻かれてから、しばらくの時が流れた。その後、何度か惜しいチャンスはあったものの、やはり最後の詰めが甘くユキヒョウに出逢うことはなかった。

写真を撮るどころか、その姿を見ることもできないことに、ユキヒョウ撮影の難しさを感じる。結果が出ないのは少々残念だが、僕らはあきらめることなく、相変わらず足跡を見つけては岩山を駆けめぐるという日々を送っていた。

ある朝、テントから数百メートル離れたところに、まだ新しいユキヒョウの足跡を見つけた。ドルジ仙人が足跡を見て判断したところ、2頭のユキヒョウが今朝方歩いたものであるらしい。以前に巻かれた時も2頭であった。「もしやっ」と思っていると、

「多分、あの2頭に間違いないだろう」

とドルジ仙人が言った。僕の身体に緊張が走る。僕はドルジさんの足の動きに合わせ、今度こそ巻かれないようにと、慎重に歩くことにした。しかしドルジ仙人、少し進んだところで座ってしまった。

「どうしたんですか」

と尋ねたが、返事はない。懐から穴の開いたコインを9枚出すと、それを片手にふくませ、山に向かってくるくる手を回してブツブツ言っている。それから「チャリンチャリン」言わせながら手を振り、手のひらに9枚並べた。

おいおい「チャリンチャリン」しちゃったら動物が逃げちゃうよ。と思ったが、その行動がよく分からないので何も言えなかった。

ドルジ仙人はコインを見ると、違う方向に向かってもう一度同じことを繰り返した。そして、

「今日はテントに帰ろう」

と言った。

「へっ? 帰るの。ユキヒョウは。これからがいいとこなんじゃないの。あれ〜っ。あれ〜っ」

突然のユキヒョウ捜索打ち切りに、どうにも合点がいかない僕。しかし、ドルジ仙人はとっととテントに向かって歩いて行ってしまった。

僕はテントに戻ると、どうして帰ってしまったのかを聞いた。

「この占いで、テントに帰れとでたから」

仙人は多くを語らず、そういうことだと説明した。

「この期に及んで占いかよ。ちっ」

結局、その日は、二度と探しに行かなかった。

次の日の夕方、ドルジ仙人は、

「シミズ。私の遊牧の仕事があるからそろそろゲルに帰らないか。肉もないことだし。ユキヒョウはまた来たときに探せばいいさ。その時までにユキヒョウがどこにいるか、私も調べておくから」

と言った。さらに、

「日本からは車で来たのか。列車か。あなたがいつも乗っているこのラクダをあげよう。日本へ持ってかえってくれ」

と言う。

「う〜ん。そっかぁ。ドルジ仙人は日本がどこにあるのか知らないのか。せっかくの気持ちは嬉しいんだけど、ラクダは持っていけないよなぁ。大きいしなぁ。どうしよっかなぁ」

ドルジ仙人の好意を無駄にはできないので、僕は悩んだあげく、また来たときまで預かってもらうことにした。こうしてゴビに僕の『マイラクダ』が誕生したのである。

そして明日をユキヒョウ捜索最終日とし、ゲルへ戻ることも決意した。


by 清水哲朗

つづく



モンゴリアン・チョップ メニュー