【モンゴル放浪メモ】              ◆インスタントカメラ
モンゴル人は写真が好きだ。雑誌がないので、新聞の写真でも食い入るように見ている。最近では、ウランバートルに1時間で現像できるDPEショップが増え、写真が身近なものになってきた。しかし、田舎の方はカメラも写真もまだ普及していないので、お世話になった遊牧民の家族をインスタントフィルムで撮ってプレゼントすると非常に喜ばれる。また、日本の都市風景を撮った写真や僕の家族の写真も楽しそうに見てくれる。モンゴルを旅する時は、インスタントカメラを持っていくと、現地の人と親しくなれたり、ちょっとしたメモ代わりにも使えて便利である。





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運転手の工具箱の中身。ガラクタばかりのように見えるが、本当に修理に使えるものなど入っているのだろうか。よく見ると、ボタンまである。











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ようやくゲルに到着すると、山の向こうが火事のように赤くなっていた。日が沈んだ後、太陽光線がこのように神秘的に輝いたようである。











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無事に戻ってくることができた翌日、僕の大好きなマントウを作ってくれた。中国から伝わったという料理で、小麦粉にふくらし粉を入れて練り、間に肉を挟み込んで蒸したもの。肉まんに似ているが、僕は肉を入れないマントウが好きだ。











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ゲルの天井部分、トーノ(円形の天窓)から見える星を撮影した。もちろん、肉眼ではこのようには見えないが、カメラのシャッターを3時間あけ放して撮影すると、このように写る。 ゲルの中が赤いのは数秒間だけ、ロウソクを照らしたから。
第16話 男6人、車中で一泊


プルゴンは平原の中の道ばたで止まってしまった。車内に、しばしの沈黙。

「おいおいおいおい、どうしちゃったんだい。まったく」

僕は運転手に尋ねた。運転手は笑いながら僕の顔を見ると、工具箱を取り出し、車の下に潜って修理を始めた。同行してくれた遊牧民のおじさんも車の下に潜り込んで一緒に見ている。そして、故障してそうな部分を指さし、運転手に「あ〜だの、こ〜だの」言っているようだ。

プルゴンの修理は彼らに任せることにして、僕はカメラを取り出し、プラプラ歩いてみた。しかし、ここは大平原の中。あるのは空と平らな大地だけ。写真を撮るにしても、単調すぎて何も面白くない。はいつくばって虫や花を探してみたが、あまりいい被写体はなかった。

そこで、誰か助けてくれる人や車はいないか探してみた。双眼鏡を使って360度見渡したものの、ゲルも家畜も人間も車もな〜んも見えやしない。大平原の中だもんね、いるわけないか。

結局、やることがなくなってしまった僕は、車の修理を見ていた。修理方法は、誰かが、ここが故障しているんじゃないかという箇所を一個ずつ車から取り外し、点検するという感じ。

「あ〜あ。これじゃあ、いつまでかかるか分からないね。ギアチェンジの時にガリガリいってたんだから、その辺りじゃないの」

しばらくして、運転手がギアボックスを車から外し、分解したところで、修理3人衆が大きなため息をついた。

「どうしたの?」

「あいやいやいや〜。こりゃダメだわ」

見ると、ギアボックスの中のベアリングの玉がグチャグチャになって飛び出ていた。

「え〜っ。これは直んないでしょ。どうすんの」

「とりあえず、似た部品を探してみるよ」

と、呑気な運転手。遊牧民のおじさんは、近くのゲルまで行ってくると言って、歩いていってしまった。

「う〜ん」

僕は座り込んでしまった。

日が沈むころになって、どこからともなく馬に乗った遊牧民が3人やってきた。

「この車がずっと動かないので見に来た」

と言っている。

「えっ!?」

どこにいたのよ、あんたたちは。あたしゃあ、双眼鏡で360度見回したけど、てんで見えなかったよ。

運転手は壊れた部品を見せて尋ねていたが、持っていないとのこと。少し話をすると、行ってしまった。

「お〜い。見捨てないでくれよぉ」

遊牧民のおじさんも戻ってきたが、ついに日が暮れてしまった。おじさんはゲルには辿り着けなかったらしく、途中で引き返してきたそうだ。車の中に入っていたカップラーメンを皆で食べ、寝ることにした。

その夜は、車の中で6人が寝た。僕は数時間だけ寝たが、寒いのと狭いのとで、ずっとは寝てられなかった。外に出て、星の写真を撮りながら、辺りをうろついて日が昇るのを待つことにする。

「う〜っ、寒いよ」

翌朝、運転手だけを残して、ゲルまで歩いていくことにした。ゲルに戻ってから破損した部品を探せるように、僕はインスタントフィルムでベアリングを撮影した。

ゲルまでの距離がどのくらいあるか分からなかったが、機材とフィルムを車に残していくのが心配だったので、無謀ではあるが、すべて持って歩くことにする。ポリタンクに少し残っていた水を一口飲み、出発。30分ぐらい歩いたところで振り返ってみると、まだ車が見えた。いったい、いつになればゲルに着くことやら…。

炎天下を5時間ぐらい歩いた。日差しがきつく、とても暑い。ゴビの暑さは半端ではないが、休憩できる木陰すらない。背負っている機材がズシリと肩に食い込み、汗が流れる。ただただ前を見て、黙って歩くだけ。山を越えても景色がほとんど変わらないので、不安になってきた。

「本当にこの方向であっているのだろうか。ゲルはあるのか」

それに、異常なほどの喉の乾き。手足がしびれ、目の前が青いフィルターをかけたようになっている。

「こんなところで死んじゃうのかな、僕は」

夕方近く、山を越えたところでゲルが見えた。人も家畜もいるが、僕らの目指しているゲルではなかった。

「水だ。水をくれ〜」

ゲルよりも水があるところを目指していくと、あいさつもせずに家畜が飲んでいる水をゴクゴク飲んだ。

「ウマイよ、ウマイ。あ〜、助かった〜」

一息ついてゲルに入ると、

「あの水、飲んだの? あの水は汚いから、家畜用なんだけどね」

と、遊牧民。口直しにと、スーテーツァイを出してくれた。一気に2杯飲み干し、乾燥チーズも食べた。

「目的のゲルまでは、まだまだあるよ」

と言われたが、エネルギーを補給した僕らは、それから目的のゲルまで数時間かけて歩き、喉が乾きながらも、無事に到着できたのであった。

ゲルでは、家族中が喜んでくれた。昨日帰ってこなかったので、心配していたらしい。疲れ切った僕は、食事もせずにすぐに眠りについてしまった。


by 清水哲朗

つづく



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