【モンゴル放浪メモ】
モンゴルでは、ウランバートルでも田舎でもあまり猫を見かけない。遊牧生活には必要なかったからだろうか。確かに、狼が来ても、ユキヒョウが来ても、猫では追い払うことができない。遊牧している家畜をゲルまで連れ戻すこともできない。必要なものだけがあるという本来の遊牧民の生活からすると、何もできない猫など、無用以外の何者でもなかったのかもしれない。





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暑いからか、どろんこになってしまうからなのか、遊牧民の小さな子供達が裸で歩いていた。モンゴルではよく見かけるが、青っぱなをたらしていたり、裸でいる姿は、昔の日本を思わせる光景だ。





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激しく吹き荒れる砂嵐の中、遊牧民に道を尋ねた。吹き付ける砂に悲鳴をあげながらも、しっかりと道を教えてくれた。正直なところ、「よく、こんなところに住んでるなぁ」と思った。





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ウランバートルまで、あと数百qのところにテントを張った。「これで終わりか」と、ちょっぴり淋しくなったが、明日はウランバートルにいるのかと思ったらソワソワして眠れなかった。





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真っ赤に染まる夕焼け。こんな風景をいつも見ることができるのなら、「また来ようかな」と考えても無理はない。
第18話 1杯だけのはずが……


「うっ、気持ち悪い〜。飲み過ぎちゃったかなぁ。うっぷ」

さっきまでの大宴会で、嫌っていうほど酒を飲まされたのが災いして、頭がクラクラしてきた。目を開けているのも、いっぱいいっぱいな状況なのに、プルゴンで揺られながら移動しているものだから、どうやら悪酔いしてしまったようだ。おえっ。

「どうした、シミズ。酔っ払ったのかぁ」

陽気な運転手がニコニコしながら聞いてきた。僕は、うなだれながらも片目を開けて、

「ははは、大丈夫、大丈夫」

と答えた。だが、本当はかなりやばい。シートに寄りかかったまま、頭をだらしなく下げ、背を丸めた。

「だいたい酒を飲ませすぎだよ、遊牧民は。あればあっただけ飲ませるからなぁ。振舞ってくれるのはありがたいんだけど、飲まされるほうはたまらないよ」

目をつむり、うつむきながら一人ぼやいた。

日本でも田舎の方に多いが、遊牧民は人をもてなすのが大好きだ。別れるときに必ずこう言われる。

「無事に街まで戻れるように願って、1杯だけ飲んでいきなさい。飲んですぐ出発すればいいから」

これからの車の移動や、写真撮影することを考えると、あまりアルコールは口にしたくないが、

「じゃあ、1杯だけ」

などと二つ返事で、酒をもらう。

僕は早く出発しようと思って一気に飲み干す。すると僕の顔を見てニコニコしながら、酒をかたむけてくる(ほんと、いい顔するんだよね、この時は……)。

「えっ、1杯だけって言ってたじゃん」

と言いたいところだが、日本人はあまり酒が飲めないとも思われたくないので、また飲み干す……。ニコニコしながら「もう1杯」と酒をかたむけてくる。

僕の背には「日の丸」の重みがのしかかり、断れずに、また飲み干す。また酒をかたむけてくる。

おちょこの上に小指をのせると「飲めない」という合図らしいのだが、小指をのせる前にまた注がれてしまう。ふたをするまで終わりにならないとは、日本の「わんこそば」のようだ。

もともと僕は酒が弱いほうではないと思うのだが、アルコール度数が38〜40度くらいのアルヒ(モンゴルウォッカ)を立て続けに飲まされれば、さすがに酔っ払わないほうがおかしい。

こんな感じのやりとりを何度か繰り返していくうちに、僕は酔いつぶれてしまう。嬉しいことは嬉しいのだが、適当に切り上げないと大変だ。

「もう1泊しなよ。もう1泊しなよ。もう1泊……」

気がつくと外の景色が変わっていた。どうやら僕は、ぼやきながら眠ってしまったらしい。

「う〜、頭が痛い」

運転手がウランバートルまでの道を遊牧民に聞いている。窓の外は激しい砂嵐が吹いていて、遊牧民が吹き付けられる砂に悲鳴をあげていた。

「あいかわらず、この辺りの風は強いなぁ。しかし、よくこんなところに住むよ。生活できるのかな」

その晩、僕らは最後のキャンプを張った。質素な食事をとりながら、いろいろな話をする。

「ようやく風呂に入れるよ。もう何日入ってなかったかな。日本は今、どうなってるんだろう。ゴビにいるとき、首相交代のニュースをラジオで聞いたっけ。まさか、あんなところで聞くとは思わなかったな。それと早く日本の食事が食べたい。醤油の味もいいけど、ソースもいいなぁ」

と、僕。

「あと、少しでウランバートルだ。家族に会える。元気かな」

運転手も嬉しそうに話している。人ごみが嫌だったウランバートルだが、いよいよ明日戻れると思うと、やっぱり僕も嬉しくなってきた。


by 清水哲朗

つづく



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