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ドルジさん一家が夏季に使う井戸は凍っていた。水がなくては話にならないので、ドルジさんと僕で、深さ3メートルの井戸の中に交互に入り、槍(のようなもの)やスコップで穴を開けることにした。最初の40分は、僕が槍でひたすら氷に穴を開け、疲れたところでドルジさんと交代し、バケツが入る程度にスコップで氷をかいてもらった。氷の厚さが25センチもあったので、結局1時間ちょっとかかり、終わったあとは腕がパンパンに張ってしまった。





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久々に再会したドルジ仙人。深夜に到着したことを詫びると、「気にしないで。それよりシミズが来てくれて嬉しい」と言ってくれた。独特の雰囲気と、優しさは全然変わっていない。















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ドルジ仙人の奥さん、シャラブさんが嬉しそうな顔で、生まれたての子ヤギを見せてくれた。こんなに寒い時期でも赤ちゃんは生まれる。元気に育ってほしいものだ。















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ドルジ仙人が裏山からラクダを2頭連れてきた。ドルジ仙人のラクダは全部で15頭いるが、どうやら、この2頭しか見つからなかったらしい。残念ながら“マイラクダ”との再会は次回に持ち越された。さぁ、出発だ。















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ラクダを連れて、ドルジ仙人の冬のゲルから夏のゲルまで10キロ歩いた。出発するときは晴れていたのだが、山に到着したときは雲行きが怪しくなっていた。僕が「雨男」のせいだろうか。久々に雪が降るようなことをラジオで言っていたので、気をつけなければならない。ビュンビュン吹いている風が、ものすごく冷たい。
第4話 真夜中の再会


村の中心部からドルジさんのゲルに向かうザムは、ところどころで二股に分かれていたが、その都度、山の形を見たり、“勘”を働かせて行く方向を決めた。たまにG.P.S.でも確認してみた。景色を見ながら「前にこんなところ通ったかな」と思ったりもしたが、方向としては“あっている”と信じ、前進した。

日没後、いよいよ辺りが暗くなって、場所の確認ができなくなってきた。

「この道は正しいの?」

運転手が聞いてきた。

「……多分ね」

G.P.S.で確かめると、ドルジさんのゲルまで「あと17キロ」と出ている。確実に近づいてはいるのだ。しかし、

「あれっ、前に来たときはこんな山の中走らなかったな。ヤバイ。絶対違う、この道」

と思う場所にきてしまった。不安に思いながらも運転手には黙って車を走らせていると、1軒のゲルが見えたので、道を聞くことにした。

「ドルジさんのゲルを捜しているんですけど」

「どこのドルジさん? 2人いるよ、この辺りには」

「この人です」

と、僕は写真を見せた。

「あぁ、イシッグ・オス(子ヤギの水という地名)のドルジさんか。この道は違うよ。どうやって来たの? ドルジさんのゲルならあの山を越えれば行けるよ。いい写真だね、これ」

お茶を1杯いただくと、真っ暗闇の中、僕らは言われたとおりの方向を目指した。しかし、山中は雪がまだ残っていて、思い通りに進めない。無理やり車を進めようとしたとき、ついに雪でスタックしてしまった。

運転手は車を前後に動かしたが、虚しくも、よけいに深くはまってしまう。そこで、エンジンをかけたまま、車の周囲を2人で雪かきすることにした。雪はずいぶん前に降ったらしく、ガチガチに固まっていて、氷を掘っているようだ。

車は1時間かけて雪から這い出せたが、この道は諦めて、先ほどのゲルに戻ることにした。

「どうしたの。行けなかった?」

「無理だよ、あの道は」

そこのゲルの奥さんは、哀れみを感じたらしく、僕らに料理を作ってくれた。料理を食べていると、ご主人が帰ってきたので事情を説明した。

「なんだ。そんなことなら、案内してあげるよ。ドルジさんのところに」

「えっ、いいんですか? でも今10時ですよ」

「大丈夫、明日の朝、車で送ってくれればいいよ」

「……ていうか、夜遅いし、ドルジさんにも失礼かな、なんて」

さすがに、これは口に出せないまま、ご主人とともに再度出発。でも、行く方向は同じだ。

「この道はだめなんだよね」

と、運転手と言ってみたが、ご主人は「大丈夫」と聞いてくれない。さっきスタックしたところはエンジンをふかしてなんとか抜けたが、その先はさらに雪がひどく、スタックするたびに3人で雪かきをした。

状況写真を撮りたかったが、2人が必死で雪かきしている姿を見ると、カメラを構えることなどできなかった。

「誰のために、雪かきしてくれてるんだよ。おまえがドルジさんに会うためだろ」

天の声が聞こえた。僕は撮影するのを諦め、必死に雪をかいた。

「でも、ほんとに大丈夫かな」

念のため、ドルジさんのゲルまでの距離をG.P.Sで計ってみたが、どこで計っても「17キロ」と出る。僕らは全然進んでいないのだろうか。少し不安になった。激しくふかすエンジンの音だけが、静かな山中に、虚しく響き渡った。

何度もスタックすると人間は「学習」するらしく、スタックしそうな場所の手前で車を停め、雪をかいて道を作ることにした。この方法が成功し、なんとか山を抜けることができた。

もう一度、G.P.Sで計ってみると、ドルジさんのゲルまで直線で600メートルと出た。

「おおっ、近いね」

みんなの顔に笑みが浮かぶ。ついにゲルが見えた。

「ドルジさ〜ん。いますか」

ゲルの灯りはついたが、一向に人は現れない。それもそのはず、時刻は午前1時である。

犬が車の周りで吠えている。よく見ると、見覚えのある犬だった。

「おっ、マーテじゃん。お前、大きくなったなぁ」

10分後、ようやく人が出てきた。ドルジ仙人だ。

「ドルジさん、久しぶりです。シミズです。覚えていますか?」

ドルジ仙人は笑いながら、僕らをゲルの中へ案内してくれた。娘のサラが寝ていたが、かまわず僕らは2時30分まで話し込んだ。ドルジ仙人のところは、ゾドの被害はなかったらしい。僕はとりあえず安心した。

2日後、ドルジ仙人と僕はラクダを連れて山へ向かった。残念ながら、今回は時間がないので3日間しか山へ入ることができない。ユキヒョウに出会うのは、ほぼ不可能だろう。

“マイラクダ”はといえば、今、遠くに行ってしまっていて捜すのに時間がかかるそうだ。「元気ですか?」とドルジ仙人に尋ねたが、あまりよくないとのこと。まぁ、仕方がない。次に来たとき、捜しに行こう。

日数は短いが、ドルジ仙人とまた楽しい旅ができそう気がする。


by 清水哲朗

つづく


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