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夕方、プルゴンで雪原の中を走っていると、家畜の世話していた遊牧民のおじさんが馬に乗って手を振りながら、僕らの方に突進してきた。かなりスピードを出している。“非常事態”だろうか。「こんにちは。どうしたんですか、そんなに急いで」「マッチ持ってない?」「えっ?」「朝からタバコ吸いたかったんだけどさぁ、マッチ忘れちゃって。ははは」と笑うおじさんにマッチを渡し、タバコに火をつけたところで写真を撮らせてもらった。1枚撮るごとに“ヘラヘラ”笑っていたので、僕も“ヘラヘラ”笑い返した。





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ラジオで言っていた通り、雪が降り始めた。強風が吹き荒れていたので、体感温度はかなり低い。車のドアで風を防いだが、それでもカメラは揺れていた。「寒さ」や「冷たさ」を表現する時は、絞り込んだほうが画面が引き締まり、写真に緊張感が出てくる。















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待ちに待った新雪。冬のモンゴルが寒いというのは知っていたが、月に数回しか雪が降らないとは知らなかった。昨夜は道を見失ってしまったが、今日こんなに良い景色を見せてくれたのだから良しとしよう。僕の旅は「結果オーライ」が意外と多い。















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昨晩、雪の降る中で「近くにゲルがないか」と車のヘッドライトで探したが見当たらなかった。しかし、翌朝起きてみると意外と近くにゲルはあった。「外は寒いからゲルの中に入って、お茶でも飲みませんか」と声をかけてくれた優しい少年。















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少年の家畜たち。臆病なくせに、好奇心の強いヒツジだ。「しかし、とぼけた顔をしているなぁ。揃ってこっちを見るな、コノヤロ」と言うと、「お前こそ、こっち見るな」とみんなで言い返してきた(?)。















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ついに厳冬のモンゴルの旅が終わってしまう。約1カ月、日本を離れていたが、北京経由の国際列車での移動(飛行機も含めると往復6日間)や準備などを含めると、実際は16日しか田舎のほうへ行けなかった。そのうちの12日間は車で移動していたので、かなりハードな旅になってしまった。旅はゆっくりしたほうが楽しい。
第6話 感動してる場合じゃない!


ドルジ仙人よりも早くゲルに到着すると、ドルジさんの奥さんと娘は驚いた。

「えっ、なんでシミズ1人なの? ドルジは? ラクダは?」

「う〜ん、よくわからない。でも僕は山から1人で歩いてきたんだ」

5分後、ラクダに乗ってドルジ仙人は“のらりくらり”とやってきた。奥さんはドルジ仙人に、

「なんでシミズが歩いて、あんたがラクダに乗ってるのよ!」

と怒った口調で言っている。ドルジ仙人よりも5歳年上の奥さんは、いつも、“夫”にキツイ言葉を浴びせている。ドルジ仙人は苦笑いをして、なにも答えない。

「シャラブさん。ごめん、ごめん。冗談です、冗談です。ドルジさんが途中、トイレ(大)に行くから先に行っていいと言ったので、僕1人で歩いてきたんですよ」

夕方、ドルジ一家は正月用のボーズを作り始めたので、僕も手伝うことにした。

「もうすぐですね、ツァガーン・サル。ドルジさんのところはボーズを何個作るんですか?」

「1000個ぐらいかな。今日は400個ぐらい作ろう」

日が沈んでしばらくすると、真っ赤な顔をして運転手が帰ってきた。2キロ離れたドルジさんの息子のゲルに行っていたらしい。

「おっ、シミズ帰ってきたんだ。ユキヒョウはどうだった?」

「足跡はあったけど、ユキヒョウは見れなかったよ。雪もたくさん、あったしね」

ニコニコしながら僕は答えた。

「なんで笑ってんの? それより俺はどうしちゃったんだ〜? ビー ヤッスン ベー?」

陽気な運転手にはかまわず、僕らはボーズ作りを続けた。

「明日の朝、ここを発つからね」

忘れるかもしれないけど、運転手に一応言っておいた。

翌朝、目が覚めると空はくもっていた。風も強く、なんだかうすら寒い。みんな起きてお茶を飲んでいたが、運転手はまだ寝ている。

「今朝、ラジオで雪が降るかもって言っていたから、気をつけて帰りなさい。風速も20メートルはあるって言ってるし……」

ドルジ仙人の奥さんが言ってくれた。

「はい、ありがとう。今回は、何も言わずに来てゴメンナサイ。しかも、深夜に……。次は多分、夏ごろ来ると思いますので。また、来たらよろしくお願いします。みなさん、お元気でいてください」

「次は必ずユキヒョウの写真を撮れるように、私が山のどこにいるかを調べておきましょう。気をつけて帰ってください。今度は夏のゲルいると思います。また会いましょう」

ドルジ仙人が言ってくれた。

運転手を起こし、料理を食べてから、僕らは出発した。ドルジ仙人は「無事に帰れるように」とスーテーツァイを天高くまいてくれた。

ほとんど曲がることなく道なりにデコボコ道を進むと、村の中心までは1時間30分で着いた。雪もほとんどなく、この前の雪かきは何だったのだろうという感じだ。

しかし、その先は向かい風が強く、車はなかなか進まないし、砂埃がひどくて辺りは何も見えない。運転手は慎重に車を走らせたが、そのまま日が暮れてしまった。

強風の中、やがて雪がチラチラと舞い始めた。ものすごく寒い。それでも、ある程度、今日中に距離をかせがないと後が大変なので、わずかに見える轍をたよりに車を走らせた。

しばらくすると雪は激しくなり、道がところどころ途絶えてしまっている。G.P.S.も使用したが、雪は激しくなるばかりで、ついに進むべき道がわからなくなってしまった。近くにゲルがないかと、ヘッドライトを付けたまま車を一周させたが何も見えない。結局、その場で車を停め、車中で眠ることにした。

「明日も降るのだろうか?」

翌朝、目覚めると、外はまさに“銀世界”になっていた。天気も回復し、青空が見えている。しばらくは寝ぼけまなこで「あぁ、綺麗だね」と、あまりの美しさに感動していた。しかし、すぐ我に返り、

「感動してる場合じゃないよ! 撮影、撮影」

と、あわてて寝袋から飛び出し、カメラを持って外に出た。外はかなり冷え込んでいたが、すがすがしい朝であった。

今までは雪が降らなかったため、綺麗な雪原の写真を1枚も撮影できず、とてももどかしい思いでいた僕は、この旅“初”の新雪風景に興奮した。近くにゲルが見えたが、踏み荒らされていない雪原と朝焼けを撮影する絶好のチャンスなので、あいさつは後にすることにした。

……が、ゲルで飼われている犬が僕に気づき、吠えながら突進してきた。

「あぁあぁあぁ。ヤバイ、ヤバイ。頼む、踏み荒らさないでくれ! それから、僕のこと噛まないでね」

しかし、犬は1匹でなかった。大きいのから小さいのから、計4匹が吠えながら近づいてくる。犬は吠えながら僕のまわりを回ったが、僕が必死になって振り払うと向こうに行ってくれた。まだ遠くで吠えていたが、気にせずに撮影した。

「やっぱり新雪はいいね。撮影済みフィルムがどんどんたまるよ」

しばらくすると、ゲルの方から1人の少年がやってきた。

「何やってるの? 寒くないの? ゲルに入ってお茶でも飲みませんか?」

優しい少年である。わざわざ、言いに来てくれたのだ。

「ありがとう」

少年の言葉に甘え、僕は寝ていた運転手を誘いゲルの中に入った。僕らは昨夜の事情を説明し、温かいスープをごちそうになった。

「あ〜」

体がとても温まった。撮影していた時に、寒くて感覚のなくなりそうだったつま先も、徐々に回復した。

僕らは感謝の気持ちに、車の中で聴いていたテープ1本と残っていたお菓子を全部プレゼントした。少年はとても喜んでいた。またしても、遊牧民の温かさに助けられたと思った。

僕らは礼を言うと、再びウランバートルを目指した。

「どうだい、冬のモンゴルは? また来るかい?」

運転手が聞いてきた。

「とても良いよ。きっと、また来るよ。でも、次に来るのは夏かな。もうすぐだね、モンゴルに春が来るのも……」

ツァガーン・サルの前日、僕らはウランバートルに到着した。街は大晦日の雰囲気で、とてもあわただしく活気があった。


by 清水哲朗

つづく


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