ユキヒョウについては、「モンゴリアン・チョップ」の第7話でも少し触れたが、Uの番外編として、一目惚れした出会いのことなども書いておこう。僕とユキヒョウとの出会いは、1995年にさかのぼる。場所は、東京都日野市にある東京都立多摩動物公園だった。





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多摩動物公園のユキヒョウ。やや広い飼育場は、動物園でも“引き”の写真を撮影することができる。檻(金網)になるべく近づき、中望遠以上のレンズを使って絞りを開放近くで撮影すると、金網は見事にボケてくれる。




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ユキヒョウの動きを狙って撮影する。動物園で飼われているとはいえ、本能的に野生に返る瞬間がある。この時は、もう一頭のユキヒョウとじゃれていた。




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仕事が休みだった日に、たまたま雪が降ってくれた。以前から「雪とユキヒョウ」の写真を撮影したかったので、朝起きるとすぐに多摩動物公園へ直行した。穏やかな表情のユキヒョウを撮影できて、とても満足な日であった。




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今年の1月、シベリア寒気団の影響で関東に大雪が降った。このチャンスを逃すまいと、今度はモノレールで多摩動物公園へかけつけた。嬉しさのあまり、ユキヒョウの顔をアップで撮影した。




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飼育場のユキヒョウが何かを狙っていた。多摩動物公園のユキヒョウは、開園直後や閉園前に動きが活発になる(気がする)ので、その時がシャッターチャンス。あとの日中は岩の上で寝ていて、あまり地面に降りてきてくれない。
番外編(1)ユキヒョウとの出会い


当時、写真学校を卒業し、写真家・竹内敏信先生の助手に就いたばかりの僕は、自分のテーマとなるべき被写体を捜していた。動物の好きだった僕は、とりあえず近場の動物園をいくつか巡り、目の前にいる動物を撮影していた。

しかし、どの動物園で撮影してもこれといって胸が躍るわけでもなく、暗中模索の状態で、ただただフィルムを費やしてばかりいた。

「う〜ん。このままで良いのだろうか」

初めてユキヒョウに出会ったのは、その年の夏ごろだった。といっても、ユキヒョウが今まで多摩動物公園にいなかったわけではない。それまでも、柵の前に“ゆきひょう”と書かれた看板を見かけてはいたが、僕には姿がまるで見えなかったのだ。

多摩動物公園のユキヒョウはジオラマ調のやや広い飼育場で飼われており、岩山の上で寝ていることが多い。今は岩山の形が変わり見やすくなったが、当時は下からでは見えない死角が存在していた。何も知らない僕は地面の辺りだけを見て、

「えっ、今日もいないじゃん。ユキヒョウだもんな。暑くて出てきてないのかな」

と勝手に思い込み、ちょっと待ってはみたものの、すぐに違うところへ行ってしまった。

他の動物を撮影してから、夕方にもう1度ユキヒョウのところへ行ってみた。どんな動物なのか、ずっと気になっていたのだ。すると、今度は柵のそばにあった植垣の脇で「ハァハァ」と舌を出している動物が見えた。

「おっ。おっ。これが、ユキヒョウか。やっと会えたか。とても美しい動物だな〜」

ユキヒョウという名前から、毛皮の色が白っぽいイメージをしていたのだが、実際は、黄色っぽい毛皮に輪になった斑点がついていた。

「なんだか大きな猫みたいでかわいいねぇ。でも、この顔つきはイイな。尻尾長いねぇ」 今思えば、僕はその時、ユキヒョウに一目惚れをしてしまったようだ。結局、その日は閉園まで檻の前でユキヒョウを見ていた。

次からは多摩動物公園へ行くと、入口から一番奥にあるユキヒョウのところへ、まっすぐに向かって撮影した。ユキヒョウは夜行性であるせいか、開園直後の飼育場に出てきたときと、夕方の閉園前あたりの動きが活発だった。この朝夕の時間を除くと、昼間はほとんど岩山の上で寝ていたため撮影することができなかった。

しかし、たとえシャッターチャンスが少なくとも、開園から閉園までユキヒョウを見ていることが僕には楽しかった。今までのように、目的もなく悶々と撮影していた日々とは確実に違った。助手をしていたのでなかなか休みがとれなかったが、時間があるときは、なるべく多摩動物公園へ行きユキヒョウを撮影した。

冬になると、東京にも雪が降った。その日は助手の仕事がたまたま休みであったため、朝起きるとすぐに多摩動物公園まで車で向かった。

「雪とユキヒョウを撮影してみたい。きっと綺麗なんだろうな」

多摩動物公園に到着すると、お客さんなどほとんどいなかった。入口で、

「飼育場に出ていない動物もいるので、ご了承ください」

と言われた。

「はい、分かりました」

僕は、いつものように一番奥にあるユキヒョウのもとへと急いだ。

「出てるかな、ユキヒョウ」

近くまで行くと、ユキヒョウが元気に雪の上で遊んでいるのが見えた。あわてて檻の前に行ったが、ユキヒョウは雪遊びに夢中で特に逃げなかった。

「あぁ、来てよかった。やっぱりユキヒョウには雪が似合うなぁ」

ユキヒョウの動きを見ながら、僕はシャッターを押した。ユキヒョウの表情は、今までと違っていた。ほんとに楽しそうだったのだ。

「いいなぁ。この表情。野生のユキヒョウもこんな感じなのだろうか。見てみたいなぁ、野生の姿を。でも、ユキヒョウはレッドデータブックで“E”に指定されているからな。野生の姿を見るのは難しいのだろうな。ましてや、撮影するなんて……」

いつしか僕は、動物園でのユキヒョウ撮影では満足できず、本気で野生のユキヒョウを撮影しようと考えるようになっていったのである。