モンゴルの花風景は素晴らしいが、撮影は結構きつかった。なぜかというと、花の周りには“虫が多かった”のだ。ハエや蚊が大連隊を率いて、頭上や耳元で「ぷ〜ん、ぷ〜ん」とうなりながら飛んでいる。さらに、足がチクッとしたので、見てみると足元はアリに覆われていた。機材を入れたバッグを、アリ塚の山の上に置いてしまっていたのだ。バッグはアリで埋め尽くされ、足元はアリの攻撃、頭上はハエと蚊の大連隊。これには参った! 一部の撮影地に限った話だが、綺麗な場所には“要注意”である。





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ヤナギランの大群生地。深緑の山が桃色に染まるほど咲き乱れていた。こういう場所があると、僕の経験してきたモンゴル(南ゴビ)のイメージだけでは、モンゴルを語れなくなってくる。




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花の名前はあまり詳しくない僕だが、様々な種類の花が咲いていると、自然と興味がわいて名前を知りたくなる。しかしac塔Sル人に花の名前を聞いても「ピンクの花」とか「白い花」だとか何色の花と答えるだけで、正式なモンゴル語の名前が分からない。




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斜めに咲いていたヤナギランを上から見てみると、興味深い形をしていた。写真には、被写体を意外な角度から見る、頭のやわらかさが必要なようだ。




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ボルガンの街全体を見渡せる高台にあったゲル型の建物は、なんと“お墓”だそうだ。誰のだったか忘れてしまったが、たしか有名な詩人の墓と言っていたような……。僕らは明日、この街で行われるナーダムを見るつもりだ。
桃色に染まる山


湖があり、緑があり、おまけに花まで咲き乱れている。車の調子もよさそうだ。

「素晴らしい。たしかに綺麗だ。旅をするにも、写真を撮るにも申し分ない」

でも、幸先が良い旅というのはどうなのだろうか。何か“危険な香り”がする。

いや、“危険”といってもモンゴルを旅すること自体は決して危なくないと思う。ただ、今までの旅では車の故障などのトラブルが何度もあっただけに、モンゴルを放浪するときには必ず何かが起きるような“トラウマ”が植え付けられてしまったらしい。出発してからまだちょっとしか移動していないが、何もかも順調にいっている旅が僕には怖いだけなのだ。

「モンゴルの旅にはトラブルがつきもの。この先、きっと何か起きるに違いない」

そんな思いがあるためか、この状況を素直に喜べない自分がいた。しかし、いつまでたっても恐れている“何か”は起きない。

「あれ〜、変だな」

そればかりか、今までよりももっと素晴らしい花風景を見せてくれている。

「ん! これは、もしかすると、もしかするんじゃないの。いや、でもまだ分からないぞ。ここはモンゴルだもん」

南ゴビに行ったときとは違い、ウランバートルより北に位置する山には緑があふれている。ほとんどの木がカラマツだが、場所によってはシラカバが生えているところもある。

気のせいか、南ゴビより空気も美味しく感じられる。なんだか唄いたい気分だ。この深緑の山に、桃色に染まった一帯が車窓から見えた。

「なんだろ、あれは? 花かな? でも、花だとしたらものすごい数だよ」

僕は桃色に染められた風景を見ながら、そんなニュアンスの言葉をモンゴル語でボソッと言った。

「あれは花だよ。撮るかい?」

運転手は煙草をふかしながら、僕に尋ねてきた。

「うん。行こう、行こう。いいねぇ。何の花かな」

車で近くまで行ってみると、桃色の花の正体はヤナギランの大群落であった。

「ひゃ〜ぁ。何だ、こりゃ。おったまげの、ぶったまげだわ」

まさに足の踏み場もないぐらい、花が咲き乱れている。

「どこをど〜やって撮影しますかねぇ。いやいやいや、スゴイスゴイ」

嬉しい悲鳴が出るほどのヤナギランの大群落は、いつのまにか僕の“トラウマ”を忘れさせてくれた。しばらく撮影し、車でちょっと先まで移動すると、さっきよりも大きな群落があった。

「あぁ、信じられない。ここが、モンゴルなのか!」

見る風景、見る風景がため息の連続である。それまで南ゴビの乾燥した風景ばかり見ていた僕は、緑や潤いのある北の地で、すっかり癒されていった。

「やっぱり、来てよかったんだ」

運転手のバットスフは言った。

「ここの風景も素晴らしいが、さらに北にあるフブスグルはもっと素晴らしいよ。早く行きたいよ、あそこへ」

ここよりももっと素晴らしい場所、フブスグル。僕も早く、この目で見てみたい。まだまだ知らないモンゴルを求めて、僕らはさらに北へ移動する。

明日、7月11日はモンゴルの夏の祭典「ナーダム」があるらしい。せっかくの機会だから、風景だけでなく国民的行事も見てみたい。とりあえず、僕らはここから一番近いボルガン県のナーダムを見ることにした。