日本の縁日のように、ナーダムでもいろいろな出店が並び、衣類や食料、文具、雑貨、馬具などが売られている。毎日親の手伝いをして、欲しいものも“グッ”とこらえてきた遊牧民の子供たちも、この日ばかりは好きなものを買ってもらったりする。写真撮影業もあり、いかにも“なんちゃって”の手書きミッキーをバックにしたり、鹿の赤ちゃんを抱いて“真顔”で撮影されたりしているので、見ていて面白い。





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弓を射る少女。ナーダムは男の祭りかと思っていたが、女の子も参加していた。ただし、これは“子供ナーダム”的なものであった。誰でも参加できたのだろうか。ナーダムの中で意外と地味なのが、この弓である。














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モンゴル相撲の会場から競馬の会場まで移動すると、すでに人が溢れていた。ひとつの競技が終わると民族大移動のように皆、会場を移動する。ナーダム観戦は、とにかく忙しい。














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田舎のナーダムは近くで見られるのがいい。全ての競技が間近で感じられる。写真撮影技法のひとつ“流し撮り”をして、競馬のスピード感を出す。














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競馬終了後、出場した男の子に声をかけてみた。名前はバータル、10歳。4歳から馬に乗り始めたという彼は、最後のレースで10着だったと、残念そうな顔をしていた。競馬は1歳馬から5歳馬以上までのレースがあるが、今回、この子は全てのレースに参加して好成績を収めたらしい。














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相撲の優勝者にメダルと記念品が渡された。この瞬間、人だかりができて、人々は優勝者に握手を求めていた。ミーハー根性まるだしの僕も手を差し出し、握手してもらった。ついでに、もみくちゃにされながら写真も撮った。
初めての大失態…でも大満足!


ハウスに戻ると、僕は興奮を抑えきれず運転手のバットスフに感想を話していた。

「最高だよ、ナーダム。かなり面白いね! しっかし、モンゴル相撲は迫力あったな〜」

それを聞いて、おじいさんが、

「そうかい、よかったねぇ。競馬はどうだった?」

と訊ねてきた。

「競馬? あぁっ! そうだよ〜。おじいさんっ、競馬は見られなかったんですよ」

「えっ、どうして?」

事情を話すと、おじいさんは一瞬、すまないような顔を浮かべたものの、何てことはないようである。

「あぁ、そう。明日は何時からかな。まぁ、アイラグでも飲みなさい。アルヒもあるから」

言われるまま、僕らはアイラグを飲んだ。炎天下で観戦していたため、ものすごく喉が渇いていたのだ。たまに、ギンギンに冷えた飲み物が欲しくなるが、この時は生ぬるいアイラグでも何でも良かった。

「くぅ〜っ」

運転手と笑顔を見交わした。

「今日はもう出かけないよ」

運転手に伝えると、彼は嬉しそうにアイラグをおかわりした。そんなに酒を飲みたくなかった僕は、2杯目を飲んだところで外に出たが、外はまだ暑い最中だった。

「ん?」

視線を感じて横を見てみると、ハウスの陰から隣の家に住む4歳の男の子が興味深そうに僕の顔を見ている。僕がニコッとすると、こちらに近づいてきた。どうやら遊んで欲しいようだ。特にすることもなかったので、遊んであげることにした。

日が暮れる頃になると、この子の中に僕が“年上だ”という感覚はなくなり、ただの遊び友達になってしまった。ふざけて、石や家畜のウンチを僕に投げ始めたので、“こりゃ、たまったもんじゃないよ”とハウスに逃げこんだ。つたないモンゴル語で怒ったところで、たかが知れている。

「まったく、どこの国の子も興奮すると訳わからんわ!」

ハウスの中では、運転手があいかわらずアイラグを飲んでいた。頬や目の周りを紅潮させ、ご機嫌のようである。

「モンゴル人の酒好きは飲むからなぁ」

しばらくすると、さっきの男の子のお父さんがハウスにやって来た。遊んでくれたお礼に食事に招待するという。一瞬、“嫌な予感”がしたが、断る理由は何もない。運転手と行くことにしたが、彼はすでに足にキテいて、フラフラしながら歩いていた。

隣の家に入ると、アルヒとビールが数本ずつテーブルの上に並べられていた。

「あぁ、やっぱり」

僕も酒嫌いではないのだが、明日のナーダム撮影が心配だった。

「先ほどは、ウチの子供と遊んでくれてありがとう。彼の“親友”のあなたのためにお酒を用意した。今度は、あなたと私が友達になりたい。さぁ、飲んでくれ」

飲み始めると、次から次へとお酒が出てきた。自分のペースでなど飲ませてくれない。食事だけして終わる気配などまったくなかった。

運転手は泥酔し、もはや助けを求める人もいない。瓶が空になっても、裏からどんどん出てくる酒には、さすがに閉口し、

「もう、どうにでもなれ」

とあきらめてしまった。結局、“宴”は深夜2時まで続き、すっかり出来上がってしまった僕らは、そのまま眠りについた。

飲む前の“嫌な予感”は翌朝、現実となり、“二日酔い”のかなり重たい症状が僕らを襲った。目覚めると、ものすごく気分が悪く、頭が割れそうになっていた。立ち上がっただけでも吐き気がする。戻しそうになり外に出ると、太陽の光が眩しすぎてよけいに具合が悪くなった。運転手も、朝から何度もトイレに行っているようである。

食事も受け付けないほどの二日酔いをしてしまった僕らは、昼まで寝ることにした。競馬が始まってしまうが、今やそれどころではなかった。

「なんてこった」

ナーダムは1年に1度しか行われないものである。そんな時に、このブザマな有様。二日酔いの薬もないので、ただただ寝て治すしかない。モンゴル放浪の旅を始めて、初めての大失態である。

昼過ぎになっても二日酔いは抜けず、仕方なくそのまま相撲の会場に向かった。こんな日に限って、昨日よりも晴天。ただでさえ炎天下なのに、よけい暑く感じる。

「どうにも、たまらん!」

少しだけ写真を撮って競馬の会場に移動すると、そこにも人が溢れていた。それでも、昨日よりは人が少ないとのこと。相撲に強い力士が出るので、そちらに行ってしまっているらしい。あと2時間ほどでゴールするというので、気分がすぐれない僕らは、風が心地良い車の下で仮眠することにした。

ウトウトしていると、歓声が聞こえ始めた。どうやら先頭の馬が見えてきたらしい。とはいえ、まだまだずっと遠い場所にいる。もうしばらくはかかりそうなので、ゆっくりとカメラを準備し、ゴール付近に陣取った。

遠くの丘を上ってくる数頭の馬が肉眼でも確認できるようになると、それはみるみる大きくなっていった。速い馬はさすがに、あまり疲れていないようである。最後まで全力で駆け抜けていった。この時ばかりは、二日酔いを忘れ夢中でシャッターを切った。

昨日の相撲もそうであったが、馬の激しい息遣いや子供たちの応援する声が間近に聞こえ、かなり迫力があった。観客の歓声も素晴らしい。30分ぐらいの間にほとんどの馬がゴールした。あっという間の出来事であった。

1着でゴールした馬には“速い馬”の称号が送られ、人々に囲まれていた。その中に、ひとりで座っている少年がいた。家族も友達もいないのだろうか。僕が話しかけると、無表情のまま少年は答えた。

「バータル、10歳。隣の村から来た。4歳から馬に乗り始めて、今回は全ての競馬に出場した。今のレースは10着だったが、数多くの馬の中で10着は速いほうだ。他のレースでは、もっと早い着順にもなった」

多くを語らない彼には遊牧民として、また騎手としてのプライドがあるのだろう。

「来年、また頑張れよ」

と言い残し、僕らは相撲会場へ向かった。

到着すると、すでに準決勝は終わっており、決勝が始まるところであった。大きくていかにも強そうな力士が決勝に残った感じだ。

取り組みが始まると、さすがに決勝に残った者同士。どちらも譲らず、面白い戦いとなった。10分ぐらい続いたが、最後には一瞬の油断をした力士が敗れた。やはり、モンゴル相撲は手に汗握る迫力だ。砂かぶり席だから、なおさらなのであろう。

興奮したせいか、二日酔いがだいぶ抜けてくれた。この取り組みが終わると、すぐに授賞式が始まり、勝者にメダルと副賞が渡された。

年に1度の祭典、ナーダム。モンゴルの文化を勉強するなら、絶対に外せないものだ。こんなに面白いお祭りなら、何度でも見てみたい。次に見る機会があっても、僕は絶対に田舎のナーダムを選ぶであろう。