自他共に認める“雨男”の僕には、シャワーキャップが欠かせない。といっても、別に僕が被るわけではない。大事なカメラやレンズを雨や水、砂埃から守るために使うのである。これは、師匠・竹内敏信氏の助手をしていたときに教わった方法だ。雨の日はもちろん、砂漠の砂を記念に持ち帰るときや、少量の水を汲むときにもビニール袋代わりに使えるなど、これが意外と便利で、モンゴルには毎回、持ってきている。





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船頭のオジサンからカットした空き缶を受け取ったバットスフは、フブスグル湖の水をそのまますくって飲み干した。無色透明・無味無臭の冷たい天然水は実に美味い!








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フー・トルゴイ(子供の頭)という浮島に上陸させてもらう。乗ってきた黄色いボートが、不思議なほど風景にマッチしている。








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浮島には、色とりどりの花々が咲き乱れていた。踏み荒らす者のいない浮島は、花にとって“楽園”なのだ。フブスグルの風景は何もかもが鮮やかで美しい。








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停泊している大きな船にもお金を払えば乗船できたが、今回は小さなボートで周遊しただけで大満足である。








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湖に沿った道はないということだが、少し離れた山道を通れば、再び湖の近くに出られるらしい。途中、ネギ坊主みたいな赤い花が道案内してくれるかのように咲いていた。
今というチャンスは二度とない


船の撮影を終えて下りてくると、バットスフが何やらオジサンと話していた。

「どうしたの?」

「このオジサンが、船に乗らないか、って」

「えっ、この大きい船に乗れるの?」

「違うよ、こっちの小さいほう。これで近くの浮島を1周してくれるって」

「ボートかぁ。いくらなの?」

「モンゴル人が1000Tg(≒1USドル)、日本人は5000Tgだって」

外国人価格である。

「モンゴル人の5倍も払うのかぁ。どうしようかな」

でも、よくよく考えてみれば、モンゴルでボートに乗るというのは、違う気分が味わえてなかなか楽しそうである。こんな機会はめったにないので、オジサンの誘いを受けることにした。

ブルン、ブルルン、ブルブルン……。オジサンが勢いよくモーターエンジンをかけようとしていた。

「シミズ、カメラ濡れるから気をつけろって」

「えっ? あぁ、はいはい」

日本語で答えた。なんだか、異国の地でボートに乗るというのはドキドキするもんだ。僕は17〜35ミリの超広角レンズをつけたカメラを濡れないようにシャワーキャップでくるみ、大事に胸の前に抱えた。

桟橋から大きな船の脇をかすめ、ボートは出発した。オジサンはグングン加速して、すぐにトップスピードに入る。髪の毛はオールバックになり、水しぶきが、しこたまメガネにかかった。

バットスフはボート初体験らしく、何となく“おっかなびっくり”という顔をしていたが、すぐに笑顔に変わった。

吹き抜ける風がどうにも心地よい。フブスグルの大自然を、湖の上から見られるというのは、なんとも贅沢である。何もかも忘れ、ボート上から見える風景を純粋に楽しんだ。

「ポ〜ッ!」

僕は突然、訳のわからぬ奇声を上げ、喜びを表現した。バットスフも同じく大声をあげている。

船頭のオジサンが、カットした空き缶をバットスフに手渡した。

「それで何するの?」

バットスフはボートから手を伸ばし、空き缶に水を入れて一気に飲み干した。

「くぅ〜っ。うめぇ」

透明度がすこぶる高いフブスグル湖の水は、そのまますくって飲めるようだ。僕も真似して飲んでみたが、無色透明・無味無臭の冷たい天然水は確かに美味かった。僕もバットスフも続けざまに数杯飲んだ。

ボートは近くのフー・トルゴイ(子供の頭)という浮島を回って戻る予定だったが、僕は浮島に足を下ろしてみたくなった。船頭のオジサンに交渉してみると、「少しなら……」ということで浮島上陸の許可が得られた。何事も言ってみるものである。

旅での後悔はあまりしたくない。これまでモンゴルを旅してきて、“今というチャンスは二度とない”と悟ったのだ。

「次に来たときでいいや」という考えで行動していたときには、“その瞬間”を取り逃してしまうことが実に多かった。やりたいと思ったことを、すぐ実行できる性格になったのは、モンゴルを旅するようになってからだ。

オジサンはボートのスピードを緩め、上陸しやすいところへ接岸してくれた。

浮島に上陸すると、目の前の光景に驚いた。木々の根元に、色とりどりの花々が咲き乱れていたのだ。

「ここは、なんて素晴らしい場所なのだろう」

人間も家畜もいない浮島は、花にとって“楽園”なのだ。小鳥たちの鳴き声も聞こえる。僕はそっとカメラを構え、シャッターを切った。

足元が湿地のようになっているので、“浮島にいる”というのが実感できる。フワフワと浮かんだ草の水溜りにそっと足を踏み入れ、僕は辺りを歩いてみた。

ここには、何とも言えない時間が流れている。「少しだけ……」と言っていたオジサンも、すっかりくつろいでいた。

しばらくして、僕らはこの浮島を離れた。時間にして40分のボートでの旅だったが、とても贅沢な時間を過ごすことができた。

オジサンの話では、停泊している大きな船も80ドルを払えば出港してくれるらしい。150ドル出せば、さらに遠くにあるカモメや鵜のコロニーがある島まで連れて行ってくれるそうだ。

「それもいいなぁ」と思ったが、今回は遠慮することにした。あの小さなボートだけで、僕は満足であった。

「オジサン、どうもありがとう。楽しかった。このまま湖に沿って北上できる道はあるの?」

「いや、ないな。湖を少し離れた道を抜けると、チャンカイというところがあるから行ってみなよ。ここから26キロぐらいだから」

「うん、わかった。それじゃぁ」

気分は上々である。僕らは唄を口ずさみながら、次の目的地、チャンカイを目指した。