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一向に進まぬ僕らを、嘲笑うかのように見ていた牛たち。「いいよなぁ、草を食むだけの奴らは……」なんて愚痴ってみたりして。 |

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フブスグル湖の東側から見る風景。辺りが開けていて、西側とはまた違う表情をしている。この川は、湖へと流れ込んでいる。
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白い砂浜のあるフブスグル湖畔。さっきまで降っていた雨は、うそのように晴れ上がった。やっぱり、青空だと気分が良い。
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透けるような黄色い川の水が湖へと流れ込んでいる。バットスフの話では、ここはちょうど川と湖がぶつかる場所であるため、魚影が濃いとか。
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草原の中にある小川にコウホネが咲いていた。腹ばいになって撮影していると、数頭のヤクが近づいて来た。自分の水のみ場を邪魔されたとでも思ったのだろうか。
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フブスグル湖に散った夢
ハトガルに戻ると、カラマツ林の前に広がる丘に再びテントを張った。
「いやぁ、さっきは参ったねぇ。驚いたわ」
「そうだよシミズ、気をつけないと」
「はい。スンマセン」
開放的“旅ゴコロ”は、危険があることさえも忘れさせてしまう。気を引き締め直すような出来事も、時には必要である。なんて、何事も起こらなかったから言えるのだが……。
翌日は朝から激しい雨だった。潤いのあるところには、雨が降るものだ。ドルジさんのいるゴビでは、夜中に山頂で降られた雷雨以外、雨に降られた記憶がない。乾いた南の風景が、なんだか懐かしくなった。
軽く朝食を済ませると、今日は湖の東へ行くことをバットスフに伝えた。
「東側には何があるのかな? バットスフは行ったことある?」
「すぐそこまでなら。でも、しばらく湖の近くは走らないよ」
「あ、そう。でも、行ってみますかねぇ」
東側には道らしきものが全く見当たらないので、双眼鏡で道を探してみた。数キロ先にゲルが2軒あるのが見える。僕らは道を聞こうと思い、ゲルを目指した。
しかし、簡単には辿り着けなかった。体が前後に激しく揺れるような、“超デコボコ”の原っぱが僕らの前に立ちはだかり、“見えているのに近づけない”という、もどかしい状況がしばらく続いた。
「おいおい、バットスフ。こんなデコボコの土地で、あのゲルの人たちはどうやって暮らしているんだよぉ」
「俺にも分からない」
「もういいよ。ゲルに行くのはやめよう。きっと、どっかに道があるって」
これ以上進むと車が壊れる可能性がある。どうしても行かねばならぬ場所ではないから、ゲルに寄るのは、あきらめることにした。湖畔で草を食んでいる牛たちがこちらを見て、「さっきから何やってるんだ、あの車は」という顔をしていた。
「けっ。牛にまで馬鹿にされてるよ」
うねるデコボコをなんとか脱出すると、轍が現れた。轍は北へ向かってしっかりと続いている。そして、僕らが来た方角へも……。さっきまでのデコボコはいったい何だったのだろうか。
僕はほお杖をつき、放心状態で、ただただ車窓を眺めていた。はっきりしない天気の日は、なんとなく気分が重い。また雨が降り出してきたが、野花は嬉しそうに咲いていた。
そういえば、湖の西と東では花の咲き具合が違うようだ。昨日行った西側の野花はもう咲き終わっていたが、こちら側は今が見ごろである。同じような標高でも、開花時期が違うことがあるらしい。これは新しい発見だった。
黄色い川を越えたところで、雨はドシャ降りになった。車を停めさせ、バットスフと2人でボーっと雨がやむのを待った。対向からやって来たプルゴンが2台、僕らの横を通り過ぎていった。
「あの車は北の方から来たけど、どこから来たのかな?」
「あぁ、あれはロシアからだよ。ロシアでプルゴンを買って、自走してウランバートルまで行くんだ」
「へぇ〜。この車もそうだったの?」
「そうだよ」
遠くの空では、いつのまにか青空が顔を出している。
「降ってるのはここだけか。もうすぐ上がるね。ボチボチ行きますかねぇ」
この先の道は二股に分かれていた。
「シミズ、どっちに行く?」
「う〜ん。湖のほう」
困ったときは湖でも眺めれば、何かひらめくかもしれない。道は途中でなくなったが、プルゴンに乗ったまま湖畔に出ることができた。天気は驚くほどに回復し、青空と白い砂浜のコンビネーションがなんとも言えず美しい。
湖には、波が激しく打ち寄せていた。僕は裸足になり、砂の感触を確かめた。さらさらしていて、なかなか気持ちが良い。バットスフも真似して裸足になった。先ほどの黄色い川の水が、砂浜の脇の辺りから湖へと流れ込んでいた。
「ここは、魚釣りポイントだよ。川と湖がぶつかる場所だからね」
バットスフが言った。
「えっ、そうなの? 魚がいるんだ。サオ、車に積んでないの?」
「ないよ。残念だね」
「あ〜、魚が食べたかったなぁ! 失敗した〜」
いつも水とは縁のない乾燥地帯に行っていたから、サオを持って旅することを忘れていた。それに写真を撮ることばかり考えて、釣りをするなんて、まったく頭になかった。
「魚なんて、貴重なる食料ではないか。あ〜、釣りしたい! 釣りがしたいよぉ」
悔やんでも悔やみきれないが、ないものはないのである。いくら駄々をこねても、ダメなのだ。太公望の夢は儚くもフブスグル湖に散っていった。
釣竿がない以上、これより北へ進んでも仕方がない。それに撮影済みフィルムも約80本になってしまった。
ここは素晴らしい場所だけど、そろそろ違う楽園を目指しても良い時期かもしれない。我々はフブスグル湖1周の旅をここであきらめ、勇気ある撤退をしよう。よく頑張った。
そんな気分で、いつものキャンプ地に戻ることにした。そこにテントを張り、明日フブスグルを発つことをバットスフに伝えた。
未撮フィルム、残り100本。この先、どんな場所があるのか分からないが、ちょっぴり賭けに出てみた。
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