【モンゴル放浪メモ】
休火山の登山口に、見覚えのある植物が生えていた。えっ、ネギ坊主!? 本物かなぁ? 近づいて匂いをかぐと、確かにネギのようである。バットスフにも確認してもらうと、やはり自生ネギらしい。「これからはネギ入りの食事が食べられるぞ」と嬉しそうだ。しかし、国立公園で植物を採っていいのだろうか。僕は迷ったが、ジャガイモ・人参・玉ねぎの料理にも飽きてきたところだったので、結局、少しだけ失敬させてもらった。





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驚いたことに、モンゴルには昔、火山があったらしい。休火山となった現在、火口は綺麗なスリバチ状になっている。







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“シャル・ノホイン・タム”という洞窟付近にあった穴。カルデラ状の土壌でも植物はしっかりと育っていた。ここは降りることができなかった。







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外は暑かったが、シャル・ノホイン・タムの中はヒンヤリとして寒いぐらいだった。それもそのはず、中には厚い氷柱があった。







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大きな水溜りで家畜が水浴びをしていた。テルヒン・ツァガーン・ノールのあるタリアート村では、明日、家畜のヤクが4万頭になったお祭りのナーダムが行われるそうだ。







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普通は四角いアーロル(乾燥チーズ)だが、この遊牧民のところではミンチマシーンを使って面白い形にしていた。なんとなくケーキっぽくも見える。
黄色い犬の地獄!?


朝、目が覚めるとテントの外は水浸しになっていた。

「かなり降ったみたいだなぁ」

昨夜遅く、テルヒン・ツァガーン・ノールに到着し、それからバットスフとアイラグをたくさん飲んで、僕は爆睡してしまったらしい。真夜中に大きな雨粒がテントにあたっている音を聞いて一瞬目が覚めたが、また眠ってしまったようだ。

軽い朝食のあと、僕らは出発した。お目当ての休火山はホルゴ・オールと言い、テルヒン・ツァガーン・ノールの東側に位置する国立公園内にある。湖沿いの道を進むと、国立公園入口のゲートが現れた。

バットスフは、ここでモンゴル人2人分(1人分100Tg≒10円)とプルゴン1台分(300Tg)の料金を支払った。フブスグルの時はバットスフが気を利かせて、まったく払わずに通過してきたが、今回はちょっとだけ“ズル”をして、僕をモンゴル人ということにしたらしい。

プルゴンでしばらく進むと、休火山の登山口に着いた。下から見上げたところでは、他の山と何も変わらない。むしろ低過ぎて、ほんとに火山なのか疑わしいくらいだ。

「まぁ、とりあえず登ってみますかねぇ」

僕はカメラ機材と三脚を背負って、足取りも軽く登り始めた。バットスフはとりあえず車で待っているという。さすが、プロの運転手。荷物があるから、長時間の無人駐車は危険だと思ったのだろう。

久々の山登りは気持ちがいい。ユキヒョウを求めて、ドルジさんとゴビの山を毎日登っていた頃が懐かしく思えた。

「ドルジさん、元気にしてるかなぁ」

ゴビのことを考えながら15分ほど登ると、目の前に火口が広がった。

「えっ、これだけ!? まるでアリ地獄のデッカイ版じゃん!」

僕が抱いていた火口のイメージは、マグマが固まっていて、もっとオドロオドロシイ感じだったが、目の前にあるのはスリバチ状に綺麗に土が落ち込んでいる景色だ。とはいえ、自然の神秘をじかに見られたのは貴重な体験である。モンゴルに火山があったということ自体が驚きなのだから……。

せっかく来たので、火口の淵をぐるりと一周することにした。山頂から見下ろすと青々としたカラマツ林が広がり、なかなか気持ちがいい。この辺の土壌すべてが黒いカルデラでできていることから判断すると、テルヒン・ツァガーン・ノールはカルデラ湖のようだ。

テルヒン・ツァガーン・ノールはそこそこ大きな湖なので、かなり大規模な噴火があったと思われる。いつ頃、噴火したのだろうか。

車に戻ると、バットスフが話しかけてきた。

「シミズ、この近くにシャル・ノホイン・タム(直訳すると「黄色い犬の地獄」)という洞窟があるって。行ってみる?」

僕が火口を一周している間にモンゴル人観光客が来て、洞窟のことを話していたらしい。

「うん、行く行く。面白いの?」

「……分からない」

休火山の外周をプルゴンで回っていくと、“シャル・ノホイン・タム”と書かれた小さな看板を見つけた。どうやら、この近くにあるらしい。バットスフと周辺をうろつき、洞窟を捜した。しかし看板は入口にあっただけで、その先には何もない。この辺は広いんだから、最後まで案内して欲しいものである。

それにしても、“黄色い犬の地獄”なんて、いったい誰が名づけたのだろう。名前の通り(?)、恐ろしい洞窟なのだろうか。

やがて、バットスフがシャル・ノホイン・タムらしきものを見つけた。

洞窟の入口は意外と大きい。コウモリとかが飛んでくるのではないかと、恐る恐る入ってみた。洞窟の中はヒンヤリしているが、太陽光が少し差し込んでいて真っ暗ではなかった。動物はいないようだ。

先に進むと水が溜まっており、ハトの羽根や糞がたくさん浮かんでいた。近くに行ってよく見ると、この水は氷柱の上に溜まっているらしい。長靴を履いて水の中に入ってみると、足元がツルツルと滑った。氷柱はとても厚く、ちょっとやそっとでは割れそうもない。氷どけの水らしく、足先がとても冷たく感じた。

洞窟探検をしようとヘッドライトをつけて奥へ進んでみたが、5メートルも行かないうちに岩で頭がつかえてしまい、そこで断念せざるを得なかった。特に面白い場所ではなかったが、ここでも自然の神秘に触れることはできた。

テルヒン・ツァガーン・ノール付近は観光でちょっと立ち寄るには良いところかもしれないが、僕が長居する場所ではないようだ。早々に見切りをつけ、国立公園を後にすることにした。

「あぁ、僕は何を求めてここへ来たのだろうか?」

フブスグルを離れてから、どうも“肩すかし”を食ってばかりだ。この状況を何とかしたいものである。

先ほど遊牧民に聞いたところによると、テルヒン・ツァガーン・ノールのあるタリアート村では、明日、家畜のヤクが4万頭になったお祭りのナーダムが行われるらしい。果たして、このナーダムは見るべきか。それとも、別の場所を目指すべきか。

もどかしい思いで、僕は次の目的地をどこにするか悩んでいた。