【モンゴル放浪メモ】
相撲会場から競馬会場へと移動したとき、慌てて席を取ろうとした僕は、遊牧民が馬につないで持っていた手綱を気づかずにまたいでしまった。その瞬間、遊牧民は僕に怒声を浴びせた。家畜や馬具を大事にする遊牧民にとって、それをまたぐというのは、とても失礼なことに当たる。怒られて初めて、失礼なことをしたと気づいた僕は、謝りながら手綱をくぐり直し、遊牧民に許してもらった。





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僕らにとても親切にしてくれたおばあちゃん。ここでは、バットスフは自分の家にいるようにリラックスしていた。帰り際、「また、おいで」と言ってくれた。






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ナーダム会場を見下ろせるところで、チベット仏教のお坊さんがお経を読んでいた。ここ、モンゴルではチベット仏教を信仰している人が多い。






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ナーダム会場で、風にはためくモンゴルの国旗。モンゴリアンブルーの空と好対照の赤い旗が実に印象的だ。






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タリアート村のモンゴル相撲は、服装もラフで草相撲と言ったほうがいいくらいだった。草原の子供たちが、遊びでモンゴル相撲をしているのと、そう変わらない。






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中には見るからに強そうな力士もいた。彼は普段から鍛えているのだろうか、順当に勝ち上がっていった。
もうひとつのナーダム


昨日はどこへ行こうか迷ったあげく、タリアート村で野宿してしまった。

「シミズ、これからどこに行く?」

「どうしようかな」

「知り合いのゲルがあるから、ちょっと寄っていかないか?」

「えっ、ここにいるの?」

「前に来たときに、知り合いになった人がいるんだ」

「へ〜、そうなんだ。行こう、行こう」

どこへ行こうか決めかねているときは、バットスフの助言に従うようにしている。知らない土地を当てもなく彷徨うより、現地の知り合いがいるほうが心強い。

時間はあるのだから、“とりあえず”でもそこへ行ってみる価値はある。次にどこへ行くかは、その後に決めても良いのだから……。

プルゴンは迷うことなく、バットスフの知り合いのゲルに辿り着いた。ナーダム会場からすぐの所だった。

「サェンバェノー、エメー(こんにちは、おばあさん)」

「おぉ、バットスフ! 元気かい?」

1年ぶりの再会らしく、お互い嬉しそうな顔をしている。昨年、バットスフらは夜遅くにやってきて、このゲルに泊めてもらったらしい。おばあさんはとても優しそうな顔をしていたが、日本人の僕には少し照れているようだった。

「サェンバェノー、サイハンゾスッチーノー(良い夏をお過ごしですか)?」

僕は軽く挨拶した。おばあさんも笑顔で挨拶してくれた。

「ここへはナーダムを見に来たのかい?」

「う〜ん。湖と火山を見に来たら、たまたまナーダムがあるのを知って……」

「是非見ていきなさい、楽しいから。ナーダムを見るのは初めてかい?」

「この前、ボルガンで見ました。とても楽しかったです」

おばあさんは、話しながらアイラグやシミンアルヒ(アルコール発酵させた乳を蒸留した酒)を振る舞ってくれた。美味しいのでガンガン飲むと、気分が良くなってきた。バットスフは別のゲルから勝手に酒を持ち出してきて飲んでいる。

「こりゃ、ダメだな。また、ただの酒飲みになっちゃったよ」

僕は一休みすると、ナーダム会場へと足を運んだ。

会場を見下ろせる小高い丘の上では、チベット仏教のお坊さんがお経を唱えていた。ナーダムが成功するように祈っているのだろうか。

村人は、お供え物や米を投げながら、オボーの回りをグルグルと3周していた。オボーというのは石を積み上げたもので、丘の上や道端などにある。その土地の守護神が宿るとされているので、モンゴルの人はここに石を積んだりお供えをしたりして、旅の安全やナーダムの必勝を祈願する。僕も持っていた飴を投げて、3周した。

その後、ナーダム会場に戻ったが、炎天下の中、散々待たされてしまった。観客もダラダラとしていて、本当にナーダムがあるのか心配になるほどだった。

ようやくモンゴル相撲が始まると、ボルガンで見たものとはあきらかに違っていた。なんとなく“それっぽい”格好はしているものの、正式な衣装ではなく、野球帽やジーンズ、普通の長靴などで相撲をとっている。どうも村内運動会の草相撲といった風情である。

相撲自体も、ボルガンで見た“県大会”ナーダムに比べると、技のキレがないというか、スピードがないというか、やっている力士には申し訳ないが、見ていて思わず笑ってしまう。技のレパートリーも少なく、勝負がつくまで延々と組み合っているところもあった。面白くない取り組みには、当然ながら観客の野次が飛び交っていた。

ここでも勝者は“鷹の舞い”をして勝利をアピールするのだが、若い力士は、村人の前でそれをやるのが恥ずかしいらしく、下を向いてこぢんまりと弱そうに舞っていた。

僕も小さい頃、照れ屋で、盆踊りとかできない子供だったので、彼の気持ちはよく分かった。でも、こういうときは、しっかり舞ったほうが逆に目立たないと思うのだが……。

相撲の最中だったが、辺りが急にざわつき始めた。競馬がゴールするようだ。相撲を見ていた観客全員が、近くの競馬会場に“わ〜”っと大移動してしまい、相撲の方は“水入り”となってしまった。

当の力士たちも競馬の行方が気になるようで、バイクに乗って慌てて移動している。さすが村内運動会!である。

競馬が終わると、観客全員が再び相撲会場へ“わ〜”っと大移動した。“水入り”の相撲は、また延々と取り組んで勝敗がつかなかった。

適当なところで僕がゲルに戻ると、バットスフが足から血を流している。

「どうしたの?」

「ナーダムを見に行こうと思ったら、途中の岩に足引っ掛けちゃったよ」

「ツッカケ履いているからだよ、気をつけなきゃ」

酔っ払ったバットスフに天罰がくだったのだ。これには、さすがに懲りたようで、頭をかきっぱなしのバットスフであった。

バットスフの酔いが覚めたら、僕らはこのゲルを離れることにした。ゲルにいたら、また酒を大量に飲んでしまう可能性があるからだ。

僕は、次の目的地を380キロ先にある“赤滝”にするとバットスフに伝えた。