【モンゴル放浪メモ】
モンゴル語の“ダジグィ”は、日本語の“大丈夫”という意味だが、発音もなんとなく似ているため、「ダジグィ、ダイジョ(ウ)ブ、ダジグィ、ダイジョ(ウ)ブ」とモンゴル人に教えると非常に喜ぶ。モンゴル人に何か質問された時にも“大丈夫”とわざと日本語で答える。意味を教えると、「なるほど、似てるね」と笑ってくれるのだ。他にも、“シン”が“新しい”という意味だったり、“まんま”なものもある。そういう言葉を覚えるとコミュニケーションがとりやすい。





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1メートルを超えるイトウが生息というチョロート川。断崖絶壁のところでは、身がすくんでしまい撮影できなかった。これはキャンプをした場所の近くで撮ったもの。








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モンゴルで初めて釣った魚。1メートルを超えるような“大物”ではなかったが、僕にとっては想い出の魚だ。塩焼きにして食べたら、ほんとに美味かった。








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赤滝に行く途中、ラベンダーが咲いている場所があった。撮影しようと思い、プルゴンから降りたが、残念ながら少し遅かった。近くでは、水を求めてチョウが集まっていた。








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天気が次第に悪くなってきたが、草原の丘に雲間から光が差した。赤滝まではあと80キロぐらいである。辺りが暗くなるまで、バットスフにはもう一頑張りしてもらおう。








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今日はバットスフが日没までよく走ってくれた。走行距離332キロ。「疲れた?」と聞くと、さすがに今日は「少し疲れた」と答えた。
悪いけど釣っちゃうよ


「どう、まだ足痛む?」

「ダジグィ、ダジグィ!(大丈夫、大丈夫)」

バットスフは運転しながら、怪我した足のほうに軽く目をやった。

「いっぱい、酒飲むからだよ。モーバイナー!」

僕は小指を立てながら、冗談めかして言ってやった。

「オーチラーライ!(ごめんなさい)」

いやはや、酒の魔力は怖いものである。僕も気をつけねば。

タリアート村から20キロほど進むと、目の前に大地が裂けたような場所があった。裂け目の向こう側は断崖絶壁で、今、車でいる場所も実は断崖絶壁の上である。

車から降りて恐る恐る下を覗いてみると、50メートルほど下に激流が見えた。高所恐怖症の僕には、下を見ているのも怖いぐらいの場所である。

この川の名はチョロート川という。バットスフに聞いたところによると、ここには1メートルを超えるイトウが生息しているらしい。一度はそんな大物を釣り上げてみたいものだが、なにぶん今回は釣道具を持っていない。興味はあっても、竿もないのに、こんなところを下りていくのはゴメンだ。

近くでキャンプしているモンゴル人が数人、水を入れるタンクを持ってこの断崖を下りようとしていた。

「マジ、ここで水汲むの? よく下りるよな、こんなところ。疲れるっしょ」

太公望の夢は、釣りをする前に儚くも散っていった。巨大イトウ釣りは“いつか”の楽しみとしてとっておこう。

ザムはチョロート川に沿うように続いていた。しばらく進むと断崖はほとんどなくなり、川の水を汲みやすそうな場所も出てきた。撮影ポイントはなさそうだが、キャンプのシチュエーションとしては良さそうなので、ここを今日のキャンプ地とした。

テントを張り終え、プルゴンの中で夕食をとっていると、近くに日本製の4輪駆動車とプルゴンが止まった。車のドアにはモンゴル旅行業者の名前が書かれている。

中から外国人女性客2人とモンゴル人旅行業者が数名出てきた。旅行業者は車から降りると、せっせと大きなテントを張った。テントができると、外国人客はさっさと中に入っていった。

「良いねぇ、金持ち旅行は!」

役目を終えた業者が、僕らのプルゴンにやってきた。

「今日、あそこに泊るのはドイツ人観光客なんだ。ドイツ語はできる? 僕らはこれからフブスグルへ行くんだ。君たちはここへ何しに来たの?」

「たまたま、ここを通っただけだよ。写真を撮る以外、特に目的はないけど」

「釣りはしないの? 大きいのがいっぱいいるよ。こんなの! 前に釣ったことがある」

旅行業者は手を大きく広げてみせた。

「でか過ぎだよ、それは!」

と僕が笑っていると、

「大きいのは確かにいるよ」

とバットスフが真顔で言った。ここには本当に1メートルを超えるイトウがいるようである。

「釣竿がないなら、明日の朝、一緒にやるかい? 釣竿は1本しかないけど……」

「本当ですか? 良いのですか? じゃぁ、明日の夜明け頃」

約束が守られるかどうか不安だったが、とりあえず夜明け前にしっかりと起きた。テントから旅行業者の方を窺うと、1人が起きていてガサゴソと釣竿を準備している。

「よかった。約束は本当だった」

川べりへ移動すると、彼は最初に何投かやって見せた。

「いいか、こんな感じでやるんだ」

しばらく見ていたが、まるっきり当たりはない。すると僕に釣竿を渡し、キャンプへ戻って行ってしまった。

「よしっ、悪いけど釣っちゃうよ。大っきいの!」

フブスグル湖から抱いていた釣りへの思いが、日増しに大きくなっていたのは事実だ。そんなときに巡ってきた、このチャンス。何としてでもゲットしたいものである。

慎重に釣竿とリールを動かすと、魚の当たりを感じた。と、その瞬間、魚が喰らいついた。

「よし、来た!」

慎重に釣竿を上げようと思ったのだが、慌ててしまい、すぐにバレてしまった。

「今度は落ち着いてやらねば」

10分後、また当たりが来た。慎重に釣り上げると、それは25センチほどの小さな魚であった。

その後も何度かトライしたが、大物どころか小物も釣れず、釣果はあの1匹だけであった。しかし、久々の魚。なかなか嬉しいものである。

得意げに25センチの魚を頭上に掲げながら僕はキャンプ地へ戻った。旅行業者も「小さいけどよくやった」みたいな顔をしてくれた。

釣竿を借りたお礼に魚をプレゼントしようと思ったのだが、彼らは大人数なのでいらないと言う。そこで、塩焼きにしてバットスフと食べることにした。

「うん! 美味いよ。魚はいいね。それに釣りは楽しい!」

僕は上機嫌で、再び赤滝を目指して出発した。バットスフも夜中までよく頑張ってくれた。本日の走行距離は332キロ。

明日は、いよいよ赤滝に到着する。