●日本から持ち込む食料
荷物になるので、かさばらないのが基本だ。お湯を注ぐだけの味噌汁とコーンスープを各10袋、フリカケを20袋、栄養バランス食品を数箱、醤油の小さなボトル1本。これらを100円ショップで買ったタッパーに入れて持っていく。フリカケは、おかずがないときにご飯にかけて食べるのだ。最近は、堅焼きせんべい1袋も持っていくようになった。長旅に疲れ、日本にようやく帰るという時に食べる醤油味はたまらない。





[写真クリックで拡大+撮影データ]
ジャミヤンジャブ、35歳。赤滝の近くにすむ遊牧民。モンゴル相撲をしないかというので、相手をしたら勝ってしまった。負けた彼はムキになって再戦を言ってきた。結局、4回やって2勝2敗であった。しかし、モンゴル人は足腰が強い!




[写真クリックで拡大+撮影データ]
社員を赤滝まで慰安旅行に連れてきた社長(中央)。巨大テントの主。「私のことをビッグ・ボス(社長?)と呼びなさい」と言っていた。酒好きだが、根は良さそうな人だった。




[写真クリックで拡大+撮影データ]
ビッグ・ボスに仕える社員たち。普通のおじさん、おばさん達だと思っていたら、皆、すごい酒豪で、僕は完全に飲み負かされてしまった。近くの山へ野イチゴ狩りにも連れて行ってくれた。




[写真クリックで拡大+撮影データ]
アイラグを賭けた“デンベー”。じゃんけんのようなもので、歌いながら指を使ってやる。負けた方は、大きな器に入ったアイラグをすべて飲まなければいけない。とにかく朝から晩まで酒を飲むのが好きな人達であった。




[写真クリックで拡大+撮影データ]
オルホン川にある赤滝の夕景。モンゴルで滝は珍しい。この滝を撮影しに来たのはずなのに、酒を飲んだだけで終わってしまった。
二日酔いには酒が効く


明け方、テントの中は体を丸めるほど寒かったが、なぜか“ぐっしょり”と汗をかいていた。そういえば目が覚める少し前に、悪夢にうなされていたような気がする。どんな夢だったか忘れてしまったが、高校時代の友人がたくさん出てきたのだけは覚えている。

「日本に帰れという暗示かな? まぁ、いっか! ここでは、なるようにしかならないのだし……」

でも、夢はなぜ、すぐに忘れてしまうのだろうか。

日本を思い出して、朝食はご飯と味噌汁にした。味噌汁を口に入れた瞬間、全身に味噌がしみわたるような感じがした。

「あ゛〜、美味い! やっぱり日本の味はいいねぇ。体が素直に受け付けるよ!」

脇目もふらず、さらさらとかき込んだ。

「バットスフよ、美味いか? これが日本の味だよ。最高だよ」

日本からいくつか持ってきた携帯用の味噌汁が、こんなところで重宝してくれるとは。味噌汁の“アリガタミ”は、日本にいては気づくこともないだろう。

「あぁ、もっと腹いっぱい食べたい! 他に日本食はなかったかな?」

正直言うと、僕の胃は小麦粉や肉を使ったモンゴル料理に食べ疲れていた。肉でも食べられるだけありがたいのだが、ほぼ毎日、同じ味付けの肉料理を食べるのはさすがに辛いものがある。

しかし、昨日は魚を口にすることができたし、今日は味噌汁を飲んだので、僕の胃もさぞかし喜んでいるであろう。やっぱり、日本人の胃には和食が良いようだ。僕的にはそろそろ“肉休み”をとりたいところである。

「赤滝でも魚釣りできないかな?」

プルゴンに乗って、いくつか浅い川を横断すると、目的の「赤滝」に到着した。昨日、キャンプしたところからは20キロちょっと、1時間半で来られた。

「ほほ〜、直瀑型の滝ですな。1、2、3……落差12メートルぐらいはありましょうかねぇ」

モンゴルに滝があるというのは、ちょっと想像しにくかったが、なかなかどうして良い滝である。今までだだっ広いパノラマ調の平原ばかりを見ていたので、たまには上に広がる空間も良いものだ。この滝を目当てに来ているモンゴル人観光客もちらほら見えた。

「なるほど、モンゴルで滝は珍しいもんね。ここはモンゴル人の観光地なんだ」

僕らは滝の落ち込み付近にテントを張った。落ち込み付近は平らな原っぱになっていて、川も近くにあるから、キャンプ地としては申し分ない。テントを張り終えのんびりしていると、近くに住む遊牧民がアイラグや木の実を売りに来た。

「ねぇバットスフ、アイラグだってさ」

「ヒッ、ヒッ、ヒッ」

「飲む前から壊れてるよ。まぁ、いいや。買いますか」

10リットルのポリタンクにアイラグを入れてもらうと、真っ昼間から僕らはアイラグで乾杯した。アイラグ売りの遊牧民も誘い、一緒になって飲んだ。濾されていないので“いろんなモノ”が浮かんでいたが、前歯で濾しながら飲んだ。

なかなか美味しいアイラグである。しかし、ここは標高1800メートルほどあるので、調子に乗ってガンガン飲んでいたら、みんな酔っ払ってしまった。

アイラグは、アルコール度が低いからと油断してたくさん飲むと、かなり酔ってしまう危険な酒である。僕らは、プルゴンの陰で風の当たりそうな場所を選んで昼寝した。ほんと、お気楽な旅である。

夕方、車の近づいてくる音で目が覚めた。なにやら人が大勢乗ったプルゴンが2台、こちらに向かってきているようだ。

車は僕らのすぐ近くに止まり、中からおじさん、おばさんが十数人も出てきた。そして、モンゴル古来の巨大なテントを張りだした。

それを見ていたバットスフは挨拶に行ったが、酒が抜けず、かったるかった僕は転がったままで見ていた。

「何が始まるんだろう?」

バットスフが戻ってきた。

「なんか会社の旅行らしいよ。あとでご馳走を作るから遊びに来いってさ。日本人がいるって言ったら、ぜひ話が聞きたいって」

「ふ〜ん、じゃぁ後で行くよ」

酒が少し抜けたところで、巨大テントに遊びに行った。行くや否や、大きな器に入ったアイラグが振る舞われた。

「まず歌いなさい。歌い終わったら、それを飲み干しなさい」

「えっ、またアイラグ……」

もう破れかぶれになった僕は、軽く自己紹介すると大きな声で歌い、アイラグを飲み干した。

やがて、2チームに分かれてジャンケンのような遊びが始まった。どうやら酒を飲むか飲まないかの賭けをするらしい。見よう見まねで僕も参加してみたが、なかなか勝てない。何度も酒を飲まされてしまった。

酒はアイラグだけでなく、アルコール度の高いアルヒもあった。すっかり酔っ払ってグロッキー状態の僕は、フラフラになって自分のテントに戻ると、寝袋にも入らずに寝てしまった。

「もうダメ。酒もいらない! ……Zzz」

巨大テントでの酒宴は夜遅くまで延々と続いたたようである。

翌朝、完全に二日酔いの僕だったが、おじさん、おばさん達は強かった。

「二日酔いには、酒が効くから」

と、巨大テントにまた呼ばれてしまった。

「あぁ、また酒かよ! こんなはずじゃなかったのに……。僕は赤滝に何をしに来たのだろうか」

この日からまるまる2日間、僕らは、酒豪のおじさん、おばさん達と酒を飲み交わした。“肉休み”どころか“肝臓”も休めないといけないようである。