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ハルホリンからウランバートルまで続く舗装道路で、「この先、こんな風に曲がりますよ」の道路標識を見つけた。ふだん走っている平原のデコボコザムでは見かけないので、妙に嬉しかった。
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バットチョローン、18歳。バットスフの奥さんの弟。勉強よりも馬が好きで、ずいぶん前に学校に行くのをやめてしまったとか。遊牧民の識字率は意外に高いそうだが、彼は文字が書けなかった。
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バットスフの親戚の子供たち。抱っこしている子はナランという。僕になついてくれて、出かける後をいつも一緒についてきた。
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オルギルチョローン、23歳。彼は来週、結婚する。僕らのために近くでタルバガン(リス科の小動物)を獲ってきてくれた。タルバガンのボートクをご馳走してくれるらしい。
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タルバガンのボートクは、焼石をタルバガンのおなかの中に入れて作る。毛皮の部分は、外側からガスバーナーで直接あぶっていた。この辺りの遊牧民はタルバガンをよく食べるらしい。
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タルバガンのボートク
「プッ、プッ、プ〜ッ! おい、犬をつかまえてくれ〜!」
バットスフがクラクションを鳴らして叫ぶと、ゲルの中から子供たちがぞろぞろと出てきて犬を押さえてくれた。外にいた子も含めると、8人ぐらいいるようだ。
「あらあら、バットスフじゃないの。元気にしてた?」
ゲルの中から気っ風の良さそうな女性も出てきた。バットスフの奥さんの姉妹のようだ。
「あぁ、元気だったよ。でも最近、仕事が忙しくてね。今回もこの日本人を乗せて、フブスグルからタリアート、赤滝とぐるっと回ってきたんだ」
「それは遠かったね。まぁ、中に入って休みなさいな」
ゲルに入ると、ヤカンに入ったアイラグと茶碗が出された。
「……」
「あんた、アイラグ飲めないのかい? モンゴル料理は食べられるの?」
「いや、アイラグは“ダジグィ”なんだけど、この前、ちょっと飲みすぎちゃってね」
「この日本人はモンゴルの酒も飲むし、料理も食べるよ」
バットスフはアイラグを飲みながら、そう言ってくれると、「いいから飲みな」と僕に目で合図した。このゲルでは、夏場はお茶の代わりにアイラグを飲んでいるらしい。子供たちも中に入ってくると、ヤカンに“口つけて”アイラグをゴクゴク飲んだ。
「あれれれっ」
軽いとはいえ、アルコールなのだが……。
「子供たちは皆、あなたの子供なんですか?」
「うちの子は5人だよ。あとは隣の子と友達。田舎だから、子供がたくさんいるのは助かるのよ」
「お義父さんは元気?」
バットスフが質問した。
「あぁ、元気だよ。2キロ離れたゲルにいるから、ここで少し休んだら、行ってみたら?」
アイラグを何杯か“おかわり”すると、僕らはまたしても軽く酔ってしまった。
「バットスフ、2キロなら歩いていこうよ。車だと危ないし」
酔ったまま、お土産を持って歩きはじめると、さっきの子供たちも一緒についてきた。子供たちは「外国人」の僕が珍しいようだったが、気軽に話し掛けてくれた。
「ねぇ、どこから来たの? これは、なぁ〜に?」
子供は、片言でも身振り手振りを交えればコミュニケーションがとれるので話しやすい。「分からない」と言うと、僕が理解できるまで熱心に教えようとしてくれるので非常にありがたいのだ。僕のつたないモンゴル語は、子供たちと遊んでいるうちに覚えたものが多い。
話をしていると、あっという間に2キロ先のゲルに到着した。このゲルはバットスフの奥さんの実家で、奥さんの両親や弟たちが暮らしているようだ。
ここでも久々の再会となったバットスフは、
「こないだの正月、仕事で来られなかったんだよね」
と言って、恥ずかしそうに、遅ればせながらの正月の挨拶をした。それから今回の旅や僕のことを紹介してくれると、またしてもアイラグの歓迎を受けた。バットスフの奥さんの両親に勧められては“断るに断れない”ので、僕は苦笑を浮かべながら飲んだ。
モンゴル人が酒好きで、交流には酒が欠かせないということは、今回の旅を通じてよ〜く分かった。モンゴルでは、酒のない触れ合いは、まずありえないと思った方がいいだろう。
「そういえば、バットスフ。来週はここに来るのかい?」
お義父さんが聞いた。
「たぶん、来られると思うんだけど……。シミズ、実は来週、ここで義弟の結婚式があるんだ。一度ウランバートルに戻って、家族を連れてきてもいいかい?」
「えっ? 別にいいけど、僕も来ていいの?」
「もちろん。是非いらっしゃい」
お義母さんが言ってくれた。
「お礼に写真を撮ってあげますよ」
「あら、嬉しいわ。大勢来るから、みんなで記念写真を撮りましょう」
「シミズはタルバガンのボートク、食べたことある?」
お義父さんが話し掛けてきた。タルバガンというのは、リス科の小動物だ。
「前に一度、少しだけ食べたことがあります。ヤギのボートクなら以前、ゴビで食べました」
「あとで息子が捕まえてくるから、ご馳走しよう」
「ありがとう」
アイラグで酔っ払った僕は、ベッドを借りて寝てしまった。1時間ほど眠ると、子供たちが僕を起こしに来た。
「ねぇねぇ。タルバガン捕ってきたよ! 起きて!」
ゲルの外に出ると、奥さんの弟がタルバガンを持って立っていた。
「さぁ、調理しよう」
焼石やガスバーナーを使うと、数十分でボートクは出来上がった。タルバガンの腹をナイフで割くと肉汁があふれ、肉はしっかりと焼けている。恐る恐る口に運ぶと、少々脂っこいものの、なかなかイケル味だった。
「来週、また食べさせてあげるよ。今度はもっとたくさんね」
翌日、僕らはウランバートルに向けて出発した。ここからなら、舗装道路を5時間も走れば到着するだろう。
「モンゴルの結婚式かぁ。初めて見るなぁ。どんななんだろう?」
「すごいよ、1日じゃ終わらないんだ。3日間は宴会をやるからね」
「また酒か……」
少し不安がよぎったが、結婚式に呼ばれるのは悪くない。
ゲルを出発してから2時間ほどすると、僕はカラダの異変を感じた。なんとなく下腹部がゆるいような気がしている。
「なんか腹痛いな。ちょっと車を停めてくれない? んっ!!」
「なんだ、シミズもか!」
僕らはそろって草の茂みで“ウン”と気張った。タルバガンの肉が脂っこかったせいか、ふだん食べない肉を食べたからなのか、原因は分からないが、2人とも下痢をしてしまったようだ。僕らは、何度か“トイレタイム”を設けながら、ウランバートルに戻った。
「また来週もタルバガンを食べるのかぁ……」
不安と期待の結婚式になりそうである。
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