今回も、最初にモンゴルを訪れたときに撮影したモノクロ写真とともに、当時を振り返ってみたいと思う。前回のウランバートルの写真は、これまで掲載してきた写真とはずいぶん雰囲気が違うものだったので、驚いた人も多かったようだが、今回は、この連載の原型とでも言えるような小旅行の写真である。

モンゴリアン・チョップのもと


ほんの数日ではあるが、仕事の合間にウランバートルから少し離れた草原地帯へ行くことができた。このときに見たり、感じたりしたことが、モンゴリアン・チョップで書いてきた“放浪”のもとになっている。 平らな草原だけかと思っていたモンゴルは、実際には起伏が激しく、360度平らな場所を探すのが難しいぐらいであった。また、移動に使ったロシアンジープで起きた様々なアクシデントは、僕にとって新鮮な出来事で、ロシアンジープは徐々に愛着のある乗り物へと変わっていったのである。




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移動中、草原のかなたにいくつか湖が見えた。しかし、それは蜃気楼が見せた幻で、実際には湖など存在していなかった。ようやく近づくことができた小さな湖でロシアンジープを降り、湖畔を眺めていると、家畜の牛や馬がノドを潤すために、“ドドドっ”と勢いよく走ってきた。始めは殺気立った様子で飲んでいた家畜たちだが、喉の渇きが癒されると、徐々に長閑な風景の中に溶け込んでいった。


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田舎の街のガソリンスタンド。一応、『火気厳禁』と書いてあるが、オモチャのようで、動いているのが不思議なぐらいだ。いつごろから使っているのだろうか。ドルジ仙人が住んでいる辺りには、未だに手回し式のガソリンスタンドがあり、そこでは何人かと交代しながらハンドルを力任せに何十、何百と回さなければガソリン補給ができない。最近では日本でも見られるようなデジタル式のモノが登場してきたが、やっぱり古いものには独特の“味”がある。


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初めて訪れた遊牧民のゲル。そこに住む少女にカメラを向けると、恥ずかしげに微笑んでくれた。少女の笑顔が印象的で、今でも忘れられない。ゲルの中に入らせてもらった感想は、良く言えば整理されていて、悪く言えば閑散としていて何もなかった。当時は、この中でどうやって家族数名が暮らしているのか不思議でならなかった。

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家畜を飼い、ゲルで生活する遊牧民。すべてを自給自足でまかなう暮らしは、僕にはできるのだろうか。この遊牧民のおばあちゃんは何とも味わい深くて、良かったなぁ。ちょっとやそっと草原で生活したぐらいじゃ、こんな存在感は生まれないだろう。長い間、遊牧民として暮らしてきた証なのかもしれない。別れ際、手を振ってくれたおばあちゃんの笑顔が素敵だった。


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構造がシンプルで、オモチャのようにかわいらしい姿カタチをしたロシアンジープとの出会いは、僕にとって衝撃的だった。頭が痛くなるほどガソリン臭い車内。丘を越えようとすれば途中でエンストするし、ブレーキも利かない。仕方なく、平らな場所で自然に止まるまで後ろ向きで走った時の恐怖。横転しなかったのが不幸中の幸いだった。他にも、デコボコ道で天井に何度も頭をぶつけたことや、カーブで突如ドアが開いてしまったことなど、書き出したらキリがない。こんな体験をしたら、あなたもきっとこの車にハマるかも……。


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観光用のミニ・ナーダムをやっているところに、たまたま出くわした。到着した時が、ちょうど競馬のゴールシーンで、見ているうちに涙が出そうになったのを覚えている。早い順位でゴールして誇らしげな少年。惜敗し、涙を流す少年。どちらの姿も、素晴らしかった。観光用とはいえ、“手抜きなし”で勝負する少年たちの姿に、遊牧民としての誇りが感じられた。馬に乗って帰る大人たちの背中を見て、やっぱりモンゴルに“馬”は欠かせない家畜だと思った。